研究課題/領域番号 |
24790032
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研究機関 | 兵庫医療大学 |
研究代表者 |
吉岡 英斗 兵庫医療大学, 薬学部, 助教 (80435685)
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キーワード | ベンザイン / ベンゾオキセテン / 3-ハロアライン前駆体 / ラジカル / 有機色素 / 光触媒 / 鉄 / 三成分連結反応 |
研究概要 |
高速かつ効率的な反応の開拓を目指してベンザインやラジカルなどの不安定化学種に着目し、下記の研究を行った。これら化学種は反応制御に困難が伴う一方、適した条件下に制御できれば、これまで困難であった素反応の開発やターゲット合成の効率化が見込める。 1.ベンザインを活用した反応:まず、ベンザインとホルムアミドのπ結合挿入反応により生成するベンゾオキセテン中間体について、新たな捕捉反応を検討した。その結果、求核剤としてα-クロロエステル類共存下、π結合挿入反応~[4+1]型反応が効率的に進行し、ジヒドロベンゾフランの新規ワンポット合成法開発に成功した。また、ジエノフィルとして、アセチレンジカルボン酸類共存下、π結合挿入反応~[4+2]環化反応が進行し、4H-クロメンのワンポット合成にも成功した。これら成果は論文にまとめ、報告した。さらに、ベンザイン研究の底上げを期し、効率的なベンザイン前駆体合成法について検討した。その結果、汎用性のある合成法を見出し、これを特許申請した。 2.触媒的なラジカル反応:本研究は、光感応性色素の一電子酸化あるいは還元能や様々な価数を取り得る遷移金属イオンの酸化還元能に着目し、設計した。まず、光感応性色素を用いて、ハロゲン化アルカンから触媒的にアルキルラジカルを生成することを検討した。その結果、いくつかの色素が水中ラジカル反応に有効に働くことを明らかにし、成果の一部を論文にまとめ、報告した。活性化されていないハロゲン化アルカンについても、ラジカルが生成する興味深い知見を見出しており、そのメカニズム解明と連続反応への応用について検討を続けている。また、鉄や銅の酸化還元サイクルを利用する、活性メチレン化合物やキノン系化合物を基質としたラジカル環化反応についても検討した。その結果、新たな環化反応を見出し、基質の検討を重ね、複雑な三次元構造を明らかにし、成果をまとめつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記二種の研究を並行して進めており、また、計算化学を利用したメカニズム解析を行っている。このように、リソースの振り分けをしていることにより、問題を生じた際も柔軟に対応でき、おおよそ予定した範囲内での成果が得られたと考えている。 ベンザインの歪みエネルギーを活用した連続反応の開発では、π結合挿入反応につづく[4+1]型反応あるいは[4+2]環化反応について条件を精査し、ジヒドロベンゾフラン、4H-クロメンのワンポット合成法を開発できた。また、多様なベンザイン前駆体を効率的に合成する手法を創出でき、素反応の開発やターゲット合成の効率化の点でボトムアップが期待できる。本前駆体は、同時に、ベンザイン化学で解決すべき非対称ベンザインへの反応位置選択性の発現にも効果が期待でき、様々な反応に応用し得る。 触媒的ラジカル反応の開発では、光感応性色素を活用した反応を検討し、いくつかの色素が水中ラジカル反応に有効に働くことを明らかにした。その中で、前例のない知見を見出しており、そのメカニズム解明と連続反応への応用について検討を続けている。また、鉄を利用した酸化的環化反応を検討し、鎖状化合物から一挙に二環性ラクタムが生成することを明らかにした。本知見をもとに、反応の適応範囲やハイドロキノン類などの芳香族化合物への応用について更なる検討を行っている。 以上のように、順調に研究は進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ベンザインを活用した反応について、新たなベンザイン前駆体の合成を、ピリダインなどアライン全般に拡張し、前駆体を合成する。それら前駆体を用いて、置換基効果と反応性について検討する。置換基による反応性の制御を図り、ダブルアクティベーション法など反応条件改善の必要がある研究へ応用していく。合わせて、π結合挿入反応により生成するベンゾオキセテンやo-キノンメチドを活用した連続反応について、これまでの知見をもとに、天然物の全合成や生物活性物質のライブラリ合成などへ応用する。また、C=N結合との[2+2]型反応について検討する。現在のところ、良好な結果は得られていないが、窒素化合物の求核性について精査していく。 触媒的ラジカル反応では、光感応性色素の特性に焦点を当て、活性化されていないハロゲン化アルカンの適用範囲について検証する。また、酸化還元サイクルを実現するべく、ハロゲン化アルカンの還元的ラジカル開裂を起点とした分子内ラジカル環化反応により生成する中間体を酸化的に目的物へと変換する系を合わせて検討していく。鉄を用いた酸化的ラジカル反応の結果を元に、基質一般性を検討する。さらに、鉄や銅などの遷移金属と有機色素を共存させた触媒反応系を新たに検討する。また、酸化チタンのように、分離容易な不均一系触媒の反応への展開を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品調達に時間を要するものがいくつか存在し、納期が予定より大幅に遅れた結果、次年度使用額が生じた。 上記に関しては手配継続中であり、それらと合わせ、全体として適切に予算執行していく。 主要な研究経費としては、物品費と研究成果の発信に関係する支出を計画している。物品費の多くは、日々の研究や機器分析に使用するガラス器具や試薬で、新たなベンザイン前駆体の合成やラジカルカスケード反応の基質合成を優先して進めていく。研究成果の発信に関係する支出は、学会での発表や情報収集に関わるものとともに、論文の作成や投稿に掛かる費用を合わせて想定している。
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