研究課題/領域番号 |
24790035
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
王 超 独立行政法人理化学研究所, 先進機能元素化学研究チーム, 国際特別研究員 (90610436)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境調和型な合成方法 / クロスカップリング反応 / 亜鉛試薬 / アート錯体 / 医薬品及び誘導体の合成 |
研究概要 |
当研究課題では、環境調和型な合成反応の目標に、炭素―酸素結合を含む求電子剤(フェノール類、エーテル類など)を効率的に利用し、新しい炭素―炭素結合法を開発し、そして新反応への応用を目指している。24年度は、亜鉛試薬を用いてアリールエーテルの炭素―酸素結合の切断を経るクロスカップリング反応を開発した。詳細をを以下に示す。 エーテルの炭素-酸素結合は非常に高い安定性を持ち、エーテルを基質とするクロスカップリング反応の開発は限られる。現在でも、熊田-玉尾型(Grignard 試薬)と鈴木-宮浦型(ホウ素試薬)の二例だけしか報告はない。ニッケル触媒を使って初期スクリーニングを行ったところ、常用の亜鉛試薬(ArZnX 型、Ar2Zn 型、及びモノアニオン型亜鉛アート錯体 ArZnMe2Li など)とエーテルの反応は全く進行しなかった。しかし、当研究室で開発されたジアニオン型亜鉛アート錯体(ArZnMe3Li2)を求核剤として用いたところ、温和な条件下で望みのクロスカップリング生成物(ビアリル化合物)を高い収率で与えた。本反応は種々のアリールエーテル及び芳香族亜鉛アート錯体に適用したところ、高い官能基を許容する化学選択性を併せ持つことが判明した。また、複素環を用いた場合でも目的物を得ることができた。 さらに、本反応の応用を探求すべく、先ずは薬物分子の誘導体化を行った。(+)-ナプロキセンアミドをエーテル基質として、メトキシ基からフェニルへの置換反応を行ったところ、反応は円滑に進行し、アミドα位のラセミ化はほとんど観測されなかった。この結果は、本反応が合成終盤における化学選択的な誘導体合成に利用可能であることを示唆する。 本研究の一部分は Chem. Eur. J. 誌に掲載され、SYNFACTS 誌に「 SYNFACTS of the month 」で重点的に紹介された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の予定研究は炭素―酸素結合を含む求電子剤を使うクロスカップリング反応の開発に集中する。その為に、本年度はエーテル類化合物を求電子剤として、ジアニオン型亜鉛アート錯体を求核剤とする新しい根岸型のクロスカップリング反応を発見した。亜鉛アート錯体の高い反応性及び化学選択性であり、温和な条件で種々の官能基を有する基質に適用可能な方法の開発に成功した。また、本反応が合成終盤に選択的な官能基導入の可能性を示すことができた。昨年度の企画に基づいて、現在までの研究は概ね順調に進展している
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究は、昨年度に引き続き反応の開発を継続する予定で、反応の機構と応用を一層重視することにする。詳細は以下の通りである。 先ずは、反応の開発について、フェノール派生物を求電子剤とするクロスカップリング反応の開拓を中心にする。アーリルエーテル以外の型、特にアルキルエーテルを用いて、sp3-炭素を求む結合を作ることも視野に入れている。 一方、反応の機構について、これまで炭素―酸素結合を切断する経路、特に亜鉛アート錯体の作用は全く不明な状態にある。その過程の解析は反応の理解や設計などに非常に役に立つと考えられる。計算化学は反応メカニズムを理解する為の重要な方法であり、理論解析を行うことで、反応の素過程が明らかになることが予想される。 最後に、反応の応用について、当研究はこのカップリングに基づいた有機合成や高分子などの合成を試みる。炭素―酸素結合を含む官能基は医薬品、天然物、機能材料などに多く存在するため、本反応によって簡単に進行させる直接転換の路線の可能性、そして将来的に医薬品と機能材料合成の終盤における誘導体化が考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度未使用金額の状況(理由):24年度の本課題における重要な進展として、「エーテル類化合物を求電子剤として、ジアニオン型亜鉛アート錯体を求核剤とする新しい根岸型のクロスカップリング反応」の開発に成功した。この研究は24年度前半までにほぼ完成し、後半からは主に計算化学を用いた反応機構を検討し、反応最適化を行ってきた。25年度は、理論解析の結果に基づいて、実験的な検証を行うことになる。以上のように24年度は、理論解析が主であった為に24年度予定の研究費(実験用の物品費、旅費など)の一部分は今年度に繰越した。また、当研究室の別予算により本研究における費用(消耗品など)の一部が支払われたことも一因である。 25年度の研究費の使用計画:25年度の研究は、昨年度に引き続き反応の開発を継続する予定で、多数の実験を進行することになる。それで、研究費の使用は主に消耗品とする。その中で、希有金属触媒やリガンドなどを含む種々な試薬を多く購入する。実験器具や他の消耗品も購入予定である。一方、成果発表として旅費を計上している。また、論文投稿料、研究結果の宣伝、社会への紹介など、の活動のための予算も計画している。
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