当研究課題では、環境調和型な合成方法の開発を目指している。昨年度は、炭素―酸素結合を含む求電子剤(フェノール類、エーテル類など)の活用を目標として、亜鉛アート錯体とアリールエーテルのクロスカップリング反応を開発した。本年度の研究は昨年度に引き続き、以下の各方面に展開した。 1、昨年度開発した反応のメカニズムの理論解析を行った。初期の計算結果によると、通常受け入れられているカップリング経路は非常に高い活性化エネルギーを持ち、可能性が低いと考えられる。さらに検討したところ、ニッケルアート錯体を鍵とする経路は低い活性化障壁を実現し、合理的な経路と認められた。現在は、この反応機構の計算をさらに進めている。 2、フェノール類縁体とアルミニウム試薬のカップリング新反応を発見した。本反応は、ニッケル触媒を使い、アルミニウム試薬(ArAliBu2)とアリールエステルの反応は温和な条件下で進行し、望みのビアリール生成物を高い収率で与えた。様々なフェノール派生物にも適用できた。現在は、適応範囲を広げるための研究を進めている。 3、さらに別の環境調和型新反応の開発を実施した。現在、遷移金属触媒は幅広く使用され大きな貢献をもたらしている。しかし、同時に、それの安定性やコストおよび重金属残留による毒性などの面で環境について克服すべき課題がまた残されている。本研究では、非遷移金属触媒存在下での合成手法を目指して研究を行っている。本年度は、触媒無添加の根岸反応の開発を達成した。本反応では、ジアリール亜鉛とアリールヨウ化物だけを直接加熱して、目的のビアリール生成物を高い収率で得ることに成功した。基質を検討したところ、様々な官能基共存下反応を進行でき、中~高収率で生成物を得た。反応機構の初歩的な研究も行い、一電子移動反応を伴う経路が予想されている。本研究の一部分は Eur. J. Org. Chem. 誌に掲載された。
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