メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)は、ほとんどすべてのβ-ラクタム剤を加水分解するZn酵素である。私たちは、MBLの中でも、日本の臨床で頻繁に単離されるIMP-1を研究対象としている。IMP-1が赤紫色に着色していることに着目し、その仮説として、有色金属イオンの結合または発色団を有する化合物の結合を考えた。しかし、IMP-1中の金属イオン成分をICPで分析した結果より、IMP-1の呈色の原因は、発色団を有する化合物の結合であると考えた。IMP-1のUV-Visスペクトルは、タンパク質由来の280nmの極大吸収以外に、340nmと530nmの極大吸収を確認することができた。これらの吸収帯は、IMP-1に結合している化合物由来であると考えた。そこで、このスペクトルを指標として、IMP-1を変性させて、化合物を遊離させ、限外ろ過によってタンパク質と化合物を分離することを試みた。 IMP-1は、変性剤、酸・アルカリ、熱によって変性させた。結果として、IMP-1に酸またはアルカリを添加した後に測定したスペクトルにより、530nmの吸収の減少が確認されたことから、化合物が酸またはアルカリによって分解を受けた可能性があることが考えられた。熱処理では、IMP-1の沈殿が観察され、さらにその上清液に化合物由来の吸収がなかったことから、IMP-1と一緒に沈殿したため分離できなかった。変性剤処理では、変性剤の添加後では化合物由来の吸収の減少が観察されず、限外ろ過によって、これらの吸収の減少が少しであるが観察することができた。 これらの結果から、IMP-1の呈色の原因は発色団を有する化合物の結合であると考えているが、酸・アルカリ処理や熱処理に影響を受けやすい化合物であることが分かった。今後は、この化合物の分子量に関する情報や、IMP-1への結合様式が直接的か間接的か、MS測定を通じて検討する。
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