研究概要 |
AHと糖鎖との結合様式を解明するために、2糖体α-1,2-マンノビオース(Man2)、三糖体α-1,2マンノトリオース(Man3)、高マンノース糖鎖(Man9)とAHとの複合体の結晶化を行った。既に結晶が得られているアポ型およびAHとMan2との結晶化条件を基に、AHとMan3、AHとMan9との結晶化を行った。結晶化サンプルとして使用する放線菌由来AHの培養および精製では、AHは培養期間の違いによりN末端の配列が不均一になっていることが判明し、このことが結晶化の再現性に影響していることが考えられた。そこで、今回は培養期間を20日間と一定にして、N末端配列が均一なAHを培養し、硫安分画およびカラムクロマトによって電気泳動的に均一な酵素標品とし、結晶化サンプルとした。 AHとMan2、AHとMan3との複合体の結晶化では、それぞれ回折実験に可能な結晶を得ることができ、X線結晶構造解析を行った。AHの立体構造は、38個のアミノ酸残基から成る3つのセグメント(糖鎖結合ポケット)が対称的に配置した環状の構造を形成し、第一の糖(M1)は環状構造周辺の溶媒領域に配置しており、第二の糖(M2)はAHと結合した配置をしていた。しかし、α-1,2-1,3Man2では、第3の糖(M3)の電子密度が確認されなかった。そこで、糖鎖の結合状態を詳細に解明するために、さらにα-1,2-1,3Man2、α-1,2-1,6Man2、α-1,2-1,3-Man3とAHとの複合体の結晶化を行った。 α-1,2-1,3-Man3とAHとの糖複合体の結晶化では最近になり結晶が得られ、X線解析を行っている。AHとMan2およびMan3で得られた結晶の立体構造が明らかになれば、糖結合様式の解明につながり、解析結果から得られる構造学的情報は抗HIV薬剤を開発する際の構造基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AHと高マンノース糖鎖との結合様式を詳細に解明するためには、種々の糖鎖との結晶を用いた構造解析を行う必要がある。そこで結晶化を行ったAHとMan2、AHとMan3で結晶が得られ、構造解析により、糖が結合した状態での結晶構造を決定することができた。高マンノース糖鎖のMan9との結晶化では、まだ高分解能での結晶は得られていないが、それを補うために行ったAHとα1,2-1,3Man3との複合体の結晶が最近になり得られ、1.0Åの高分解能でのX線回折データを収集することに成功し、構造解析を進めている。この結晶構造が解明すれば、糖鎖結合様式の解明に貢献でき、今後の研究の進展にも役立つものと考えられる。 現在得られている構造学的成果は、本研究目的であるAHを新しい抗HIV薬剤として改良するための構造基盤の基礎となるため、研究目的の達成に向かって前進しているものと思われる。
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