研究課題/領域番号 |
24790060
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
運 敬太 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 研究官 (80624535)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリー / 脂溶性ビタミン / エンドサイトーシス |
研究概要 |
平成24年度は、コレステロール類似構造を有する脂溶性ビタミンD3であるコレカルシフェロールを構成成分として導入したリポソーム製剤の調製を試み、その物性評価及び細胞内取込特性評価を行った。製剤調製法の最適化検討の結果、コレカルシフェロール単独では小胞体構造が形成されず、補助脂質としてリン脂質又はコレステロールの添加が不可欠であることを見い出した。次にコレカルシフェロール含有リポソームの細胞内取込経路を明らかにするために、ヒト子宮頸癌由来HeLa細胞株を用いてエンドサイトーシス阻害実験を行った。その結果、通常のリポソーム製剤は過去の報告通り、クラスリン介在性エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた一方、コレカルシフェロール含有リポソームの細胞内取込には、一部カベオラ介在性エンドサイトーシスが関与していることが示唆された。また同様の検討を、ヒト肝癌由来HepG2細胞株及びヒト大腸癌由来HT-29細胞株を用いて行った結果、細胞種によってカベオラ介在性エンドサイトーシスの関与に多寡が見い出され、本現象には細胞種に応じたcaveolin-1発現量の差異が影響していることが示唆された。さらに機能性脂質として汎用されるポリエチレングリコール(PEG)修飾リン脂質をコレカルシフェロール含有リポソームの構成脂質として用いた場合の影響について評価した結果、カベオラ介在性エンドサイトーシスによるリポソームの細胞内取込が、PEG修飾リン脂質含有時には認められないことが示された。本知見は、リポソーム表面に一部露出したコレカルシフェロールと細胞表面との相互作用が、コレカルシフェロール含有リポソームのカベオラ介在性エンドサイトーシスに関与している可能性を示唆するものである。以上、リポソーム構成脂質としてコレカルシフェロールを含有することで、製剤の細胞内取込経路を制御できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書記載の本年度の研究実施計画は、①脂溶性ビタミン誘導体含有リポソームの設計及び構築、②脂溶性ビタミン誘導体含有リポソームのin-vitro細胞内動態評価、③脂溶性ビタミン誘導体含有リポソームのin-vitro抗腫瘍活性評価となっている。研究実績概要に記載の通り、脂溶性ビタミン誘導体含有リポソームの設計・構築、及び調製した製剤のin-vitro細胞内動態評価については研究実施計画通りの進捗状況である。特にin-vitro細胞内動態評価については、ビタミンD3として知られているコレカルシフェロールをリポソーム構成脂質として含有することで、製剤の細胞内取込経路が変化するという興味深い知見が得られている。また、脂溶性ビタミン誘導体含有リポソームのin-vitro抗腫瘍活性評価については現在研究遂行中であり、平成25年度も継続してより詳細な検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
コレカルシフェロール誘導体は、アポトーシス誘導に基づく抗腫瘍効果、抗炎症作用、並びに抗癌剤耐性克服作用を示すことが近年報告されている。そこで、平成25年度は二分子膜小胞体化したコレカルシフェロール誘導体含有リポソームにおいても同様の効果が得られるか否かを評価する。ビタミンD3誘導体は、非活性体であるコレカルシフェロールと、代謝活性体であるカルシジオール及びカルシトリオールに大別される。まず細胞毒性評価として、複数種類の癌細胞に各種コレカルシフェロール誘導体含有リポソームを添加し、一定時間後における細胞生存率をWST-8アッセイにより測定することで、製剤の抗腫瘍活性を評価する。さらにコレカルシフェロール誘導体含有リポソームによるサイトカイン応答を評価することで、コレカルシフェロール誘導体含有リポソーム添加による炎症抑制効果を検討する。また抗癌剤耐性癌細胞に対して、コレカルシフェロール誘導体含有リポソームとドキソルビシンを添加し、一定時間後の細胞内ドキソルビシン存在量及び細胞生存率を指標として、抗癌剤耐性克服作用を評価する。 また、平成25年度はコレカルシフェロール誘導体含有リポソーム内への安定的薬物封入法を構築する。具体的には、現在臨床応用されているドキソルビシン内封ポリエチレングリコール修飾リポソームにおける硫酸アンモニウム勾配に基づく能動的薬物封入方法に準じて行い、コレカルシフェロール誘導体含有リポソーム内薬物封入効率及び安定性をドキソルビシン放出実験等により評価する。さらにコレカルシフェロール誘導体含有リポソームとドキソルビシンを単一製剤化したことによる抗腫瘍活性増強効果、生体毒性、並びに抗癌剤耐性克服作用への影響を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、コレカルシフェロール誘導体含有リポソームによる抗腫瘍活性評価、及びコレカルシフェロール誘導体含有リポソーム内への薬物封入法の確立を主な研究課題としている。本研究遂行のための研究費使用計画としては、まずコレカルシフェロール誘導体含有リポソーム調製のために、試薬として製剤調製用試薬及び多機能性付与の為のPEG修飾リン脂質やカチオン性リン脂質、蛍光標識試薬等が多量に必要であるため、適時購入する。また細胞培養のための培地、血清、抗生物質等の添加因子、並びに必要な消耗品を購入する。併せて、通常使用する細胞培養用のプラスチック製品に加えて、生細胞観察用のガラスボトムディッシュ、細胞培養用マイクロプレート等の特殊な消耗品を購入する。さらにコレカルシフェロール誘導体含有リポソームによる細胞毒性評価ために、細胞毒性評価キット(WST-8)、サイトカイン応答評価のためのELISAキット、アポトーシス評価キット等を購入する予定である。また、コレカルシフェロール誘導体含有リポソーム内への薬物封入法の確立のために、モデル薬物として用いる抗癌剤を複数種類購入する予定である。
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