研究課題
アルツハイマー病(AD)患者の増加が社会的な問題となっているが、根本的な治療法は未だない。治療法開発が遅れている原因の1つとして、ADでは脳内で病態変化が起こってから、認知症を発症するまでの期間が長く、認知症発症後は脳内の神経変性が進んでいる状態であると考えられるため、効果的な治療を行うことが難しいことが挙げられる。そのため、根本的治療法開発のためには、認知症を発症する前段階、あるいは発症初期段階においてADの脳内病態変化を捉えられる方法を確立することが重要である。本研究では「p3-Alc」というAD発症の初期段階から質的な変化が起こるペプチドに着目した。ADの病理学的所見として脳への老人斑の形成があげられる。老人斑の主要構成成分であるAβのオリゴマー体が神経毒性を有するため、AD発症に深く関与していると考えられるが、神経毒性の高いAβ分子種は凝集性が高いため、その質的変化を捉えることは難しい。一方、非凝集性ペプチドであるp3-Alcは、Aβの質的変化を反映しうるペプチドであるため、p3-Alcの質的・量的解析により脳内の病態変化を知ることができる可能性がある。本申請研究では、AD患者サンプルを用いたp3-Alcペプチドの定量系の確立し定量解析を行うことによって、p3-AlcをAD診断の生化学的マーカーとして応用できるかを検証した。さらにp3-Alcの解析から、発症原因が多様であると考えられるADの発症メカニズムの一端を明らかにすることができるのではないかと考え、解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
p3-Alcは前駆体であるAlcadeinが二段階の切断を受けることによって産生される。AlcadeinにはAlcadeinα、Alcadeinβ、Alcadeinγの3つのファミリー分子があり、それぞれから産生されるp3-Alcを、p3-Alcα、p3-Alcβ、p3-Alcγと呼ぶ。これらのうち脳脊髄液(CSF)中で数ng/mL程度存在することが確認できているp3-Alcαとp3-Alcβに関して、定量測定系の確立を行った。これまでに以下のことを行った。①CSF中におけるp3-Alcαの定量測定系を作成②CSF中におけるp3-Alcβの定量測定系の作成(二種類の長さの異なるp3-Alcβ分子種それぞれを特異的に定量可能な系の作成)③血漿中におけるp3-Alcαの定量測定系の作成④少数AD患者サンプルを用いたCSF 中p3-Alcα、p3-Alcβ、血漿中p3-Alcα量の定量解析以上のことを達成できたため、研究計画は順調に進展していると考える。
今後は以下のことを行う。①定量系を確立できたものに関して、AD患者のCSFおよび血漿を用いたp3-Alcの定量解析を引き続き行う。②p3-Alcβの血液中における定量法を確立する。p3-Alcβは診断マーカーとして有力である可能性が示唆されているが、現在までに血液サンプル中のp3-Alcβの定量法は確立していない。これまでの解析からp3-Alcβの抗原抗体反応を阻害する物質の存在が示唆されているため、この阻害物質の除去、またはp3-Alcβ抽出・濃縮できる方法の検討を行う。③Alcのγセクレターゼによる切断解析を行う。AlcおよびAPPのγセクレターゼによる切断は、p3-AlcおよびAβを切り出す切断サイトよりもC末部位(εサイト)で先に切断を受けた後に、その部位よりもN末部位(γサイト)で再度切断を受けることによって、p3-AlcおよびAβが細胞外に、ICDが細胞内に分泌される。Alcのεサイトにおける切断解析を行い、APPのγセクレターゼ切断と比較することによって、その切断機構を解析することによってAD発症機構の解明を目指す。
3月納品分の支払は4月に行われたため、次年度使用額は実質0円である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (13件) 備考 (1件)
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http://www.pharm.hokudai.ac.jp/shinkei/index.html