われわれは、ERK5選択的に発現が誘導される多数の遺伝子を同定したが、その中でもp36遺伝子に焦点を当てて研究活動を行った。その結果、p36をsiRNA法でノックダウンすると、カテコールアミン生合成酵素の一つであるチロシンヒドロキシラーゼの発現が抑制されること、さらにカテコールアミンの生合成も抑制されることが明らかとなった。ERK5をノックダウンしても同様の表現型が示されることから、神経細胞の分化の過程においてERK5/p36のシグナル伝達経路は、神経伝達物質の生合成といった神経機能を強化する役割を担っていることが示唆された。 さらに最終年度も引き続きERK5とERK1/2のクロストーク機構についても検討した。免疫沈降を行うと、ERK5とERK2は共沈して両者が結合することが明らかになっていたが、ERK5とERK2のリコンビナントタンパク質を用いたin vitroの実験系で同様の実験を行ったところ、両者は相互作用しなかった。つまり両者は間接的に結合しているものと予想された。また、これまでにERK5のC末付近のThr732がERK1/2によりリン酸化されることが明らかになっていた。そこで、ERK5のThr732のリン酸化を模倣するERK5 T732E変異体を作製して、HEK293細胞に発現させたところ、ERK5の野生型あるいはERK5 T732A変異体が主に細胞質に局在したのに対して、ERK5 T732E変異体は核に局在する割合が大きく上昇することが示された。我々はERK5のThr732のリン酸化依存的に転写因子MEF2Cの活性が上昇することを明らかにしていたが、この現象はERK5の核移行が促進することが大きな理由の一つであることが予想された。つまり、これまで長く不明であったERK5のC末部位による転写活性化機構の一端が、本研究によって解明されたと思われる。
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