研究課題/領域番号 |
24790064
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 飛鳥 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助手 (50525813)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Gタンパク質共役型受容体 / GPCR / オーファン / TGFα / リゾリン脂質 / リゾホスファチジルセリン / P2Y10 / GPR174 |
研究概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、ヒトゲノムにおいて最大の遺伝子ファミリーを形成し、様々な生理的・病理的現象に関与する。また、GPCRは重要な創薬標的である。ロドプシンファミリーには、いまだリガンドが同定されていないGPCRが約65種類存在する。これらオーファンGPCRのリガンドを同定することは、GPCRの生理・病理機能の解明や創薬に密接に関わる重要な研究である。研究代表者はこれまでに、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGFα)のエクトドメイン切断を指標とした新規のGPCR活性化検出系(TGFα切断アッセイ)を確立した。本研究ではこのTGFα切断アッセイを用いてオーファンGPCRのリガンド同定を目指すとともに、TGFαエクトドメイン切断に関与するシグナルを解析した。 種々の生理活性に対するオーファンGPCRのスクリーニングの結果、リゾホスファチジルセリン(LysoPS)により活性化される3種類のGPCR(P2Y10, GPR174, A630033H20)を見出した(Inoue et al. Nat Methods 9, 1021 2012)。これら3種類のGPCRはLysoPS特異的に応答し、構造の類似した他のリゾリン脂質には全く反応しなかった。また、マスト細胞上の脱顆粒反応を誘導するLysoPSアナログのリゾホスファチジルスレオニンに対しては全く応答しなかったことから、マスト細胞で脱顆粒応答を担うLysoPS受容体はこれら3種類のGPCRとは異なるものと考えられる。 TGFα切断に関与するシグナルを解析したところ、GqシグナルとG12シグナルがTGFα切断応答を引き起こすことがわかった。一方、GsシグナルやGiシグナルはTGFα切断応答を引き起こさなかった。既存のGPCR活性化検出法と比べて、TGFα切断アッセイは特にG12シグナルの効率的な検出に優れていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
オーファンGPCRのリガンド同定には多くの研究者が取り組んできており、汎用されているアッセイ系では限り新たなリガンド同定は困難と考えられる。研究代表者は、独自に構築したTGFα切断アッセイを用いて、オーファンGPCRのリガンドスクリーニングを行い、3種類のGPCR(P2Y10, GPR174, A630033H20)が生理活性脂質のリゾホスファチジルセリン(LysoPS)により活性化されることを見出した。興味深いことに、これらLysoPS受容体は、G12と共役することがわかった。既存のGPCR活性化検出法ではG12シグナルを検出することは難しい。G12シグナルを高感度・高精度に検出することのできるTGFα切断アッセイを用いることで初めて同定が可能となったと考えられる。 TGFα切断応答には、G12シグナルに加えてGqシグナルも関与していた。一方、GsシグナルやGiシグナルはTGFα切断応答を引き起こさなかった。そこで、キメラGαサブユニット(C末6アミノ酸の配列をGαsやGαiと置換)やGα15サブユニットを用いることで、GsやGiと共役するGPCRの活性化を検出することができた。この結果、約9割ものGPCRの活性化を単一のアッセイ系条件で検出することに成功した。この割合は既存のどのGPCR検出系よりも高かった。 以上より、オーファンGPCRのリガンド同定と適用可能なGPCRの拡張に成功していることから、当初の計画以上に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、TGFα切断アッセイを用いて、オーファンGPCRのリガンド同定を目指す。候補化合物として、特に生理活性を示す脂質であるリゾホスファチジルスレオニン、リゾホスファチジルグルコース、酸化リン脂質に着目する。 TGFα切断アッセイは既存のGPCR活性化検出法に比べて、高精度・高感度であることとキメラGαサブユニットを利用可能であることから、TGFα切断アッセイを拡張してGPCRと三量体Gタンパク質との共役活性を評価する手法を構築することを目指す。具体的には、アッセイに用いる細胞(HEK293細胞)に内在に発現するGqとG12を阻害し、キメラGαサブユニットを共発現させた時のTGFα切断応答の回復を評価する。すなわち、GαサブユニットのC末との共役活性を指標に、GPCRの三量体Gタンパク質と共役活性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に細胞培養の消耗品試薬を購入するのに使用する。また、成果発表として、学会参加の旅費と論文投稿料も計上する。
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