本研究は、ストレスによって活性化するASK-p38MAPキナーゼシグナル伝達系が、細胞死や炎症反応といった多様な生理応答をどのような分子機構で誘導しているかを明らかにすることを目的としている。これまでの研究から、我々はp38の新たなリン酸化ターゲットとして、核〓受容体NR4Aファミリーに属するNtrr1を同定していた。Nurr1は、ドーパミン神経細胞や炎症性細胞において転写因子として機能し、さまざまな遺伝子の発現を制御することが知られている。しかしながら我々は、HeLa細胞に酸化ストレス誘導剤として過酸化水素を処置すると、通常核に局在するNurr1がASK-p38経路依存的に核外に移行することを見いだした。このNurr1の核外移行は、転写因子としての機能とは別の働きを有することを示唆している。ASK1-p38シグナル伝達系は酸化ストレス依存的な細胞死に必要であることから、過酸化水素刺激によるNurr1の核外移行と細胞死の関連について検討を行った。HeLa細胞において、過酸化水素刺激によって誘導される細胞死は、Nurr1のノックダウンによって抑制されたことから、酸化ストレス依存的な細胞死にASK-p38-Nuur1系が寄与していることが示唆された。さらに、Nurr1のN末端領域に存在するp38のリン酸化コンセンサス配列をアラニンに置換した変異体は、過酸化水素刺激依存的な核外移行が抑制されることを明らかにした。よって、酸化ストレス下においてASK-p38シグナルによってNurr1がリン酸化されると、核外に移行し細胞死を誘導している可能性が示唆された。今後は核外でのNurr1の細胞死誘導機構とその生理的意義を明らかにしてく予定である。
|