骨代謝は性ホルモンにより制御され、女性では閉経により女性ホルモン(エストロゲン)が欠乏すると閉経後骨粗鬆症、男性では加齢により男性ホルモンが低下すると老人性骨粗鬆症を発症する。これまでにカルボラン化合物が、閉経後骨粗鬆症モデルマウスにおいて骨組織選択的な骨量回復作用を示すことを見出した。そこで、本研究課題では、性ホルモン受容体への結合予想を計算科学的に得た、新規のカルボラン化合物であるBA321とBA341を用い、その生理活性評価、骨組織への特異性と有効性評価、生殖器への作用評価を検証し、性差を超えた新規骨粗鬆症治療薬の創生を進めている。平成24年度において、BA321ならびにBA341に対して、男性骨粗鬆症マウスへの有効性に関する予備検討を実施した結果、BA321投与群は大腿骨骨密度の回復が認められた。平成25年度は、BA321が男性と女性の双方に対して効果を示す、性差を超えた新規骨粗鬆症治療薬となり得るかの検証を行った。男性骨粗鬆症モデル動物として、雄性マウスに精巣摘出(ORX)を施した解析において、BA321投与群は貯精嚢重量に影響を及ぼさず、ORXと比べ大腿骨骨量の回復が認められた。また、女性骨粗鬆症モデル動物として、雌性で卵巣摘出(OVX)マウスを用い検討した結果、BA321はOVXにおける大腿骨骨量減少と子宮重量を回復したことから、エストロゲン作用を有する可能性が示唆された。さらに、生殖器への作用を検討したところ、性成熟前の健常雄性マウスにBA321を投与した結果、骨密度が有意に増加すると共に、男性生殖器重量(精巣・貯精嚢)の低下が認められた。本研究により、BA321 は副作用である男性生殖器過形成は示さず、骨選択的に改善作用を示し、Selective Androgen receptor modulator (SARM) 効果を発揮することが明らかとなった。
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