研究課題/領域番号 |
24790073
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 伸一郎 京都大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10542102)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ERAD / ER ストレス |
研究概要 |
Calumin は小胞体一回膜貫通タンパク質であり、calumin 欠損マウスは胎生 10.5日付近で胎性致死となるが、その詳細な生理機能は不明である。Calumin はこの時期には卵黄嚢の内胚葉細胞に発現しており、胎生 9.5日付近の内胚葉細胞において脂質の貯留が認められた。本申請研究においては脂質輸送に着目し、calumin の生理機能の解明を目指した。 内胚葉細胞と同様な機能を有する小腸上皮細胞において calumin 発現が認められ、内胚葉細胞と同様に粗面小胞体に局在していた。そこで小腸上皮細胞を用いて calumin との相互作用する分子を探索したところ ER-associated degradation (ERAD) へ関与することが示唆されている 分子を同定できた。タンパク質は立体構造を構築するために翻訳後折りたたまれ、機能タンパク質になる。折りたたまれず機能タンパク質になれないタンパク質 (unfoled protein) は小胞体内で蓄積しないよう ERAD によって分解される。ERAD には unfolded protein の認識、ユビキチン化、小胞体から細胞質への移動 (retro-translocation)、そして分解の4つの工程が存在する。これらの工程に関与する分子と calumin の相互作用を免疫沈降法にて確認したところ retro-translocation を行う分子と相互作用が認められた。ERAD の基質になる α1 antitrypsin Hong Kong null mutant を用いて cycloheximed chase assay を行ったところ、これまでその機能が全く未知であった calumin の生理的役割として ERAD に関与することを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Calumin 欠損マウスは胎生 10.5日付近で胎性致死となり、calumin 発現が認められた内胚葉細胞において脂質の貯留が認められた。したがって本申請研究においては脂質輸送に着目し、calumin の生理機能の解明を目指した。 これまでの研究で機能未知タンパク質である calumin が ERAD に関与していることが明らかになり、その中でも特に retro-translocation の工程に強い関与が示唆された。Unfolded protein は ERAD によって分解されるが、ERAD 機構の破綻により unfolded protein が小胞体内に蓄積する。小胞体内に unfolded protein が蓄積すると ER ストレスが誘導される。細胞は unfolded protein response (UPR) および ER overloaded response (EOR) を惹起し、ER ストレスを回避する機構を備えている。このような状況下では新たなタンパク質合成や分泌性物質の輸送・分泌が抑制される。これから詳細な検討が必要だが、calumin 欠損胎児の内胚葉細胞では ER ストレスが亢進しており、タンパク質合成や分泌性物質の輸送・分泌が抑制され、脂質の貯留が時惹起されたと考えられる。当初は脂質輸送と calumin の関連に着目していたが、その関与については直接的ではないと思われる。しかし大きな目的である calumin の生理的役割の解明についてはおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Calumin が関与することが示唆されている ERAD の retro-translocation は幾つかの分子が複合体となって retro-tlanslocation channel を形成することで行われる。この複合体形成への calumin の役割について検討を行う。具体的には in vitro レベルで calumin の発現を siRNA にて抑制させたときの retro-tlanslocation channel 複合体形の形成や、その複合体を形成する各分子の安定性などについて調べる。またコレラトキシンは小胞体内に侵入し、その後 retro-translocation channel を介して細胞質中に移動することが知られている。このコレラトキシンを使用した系を用いて retro-translocation への calumin の直接的な関与についても検討する。 Calumin 欠損マウスの内胚葉細胞においては calumin 欠損に伴う ERAD の破綻によって ER ストレスが亢進していることが考えられる。したがって in vivo レベルでは calumin 欠損による表現型として ER ストレスに着目する。具体的にはUPR および EOR の亢進について検討する。retro-translocation channel 複合体分子の発現や局在について in vitro レベルで明らかにしたことについても in vivo レベルで認められるかについて調べる。 以上の検討に加え、随時必要な検討を行い、ERAD における calumin の重要性について今年度中に提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に抗体、siRNA およびトランスフェクション試薬などといいた消耗品を購入する。 また、研究目的を達成した時には学会などに参加するための旅費としても使用する。
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