研究課題
本研究では,家族性アミロイドポリニューロパチーの新規治療薬の開発を最終目的とし,「変異トランスサイレチン (TTR) の特異的細胞外分泌抑制および細胞内クリアランスの促進」を可能にする小胞体内TTR四量体形成阻害剤の創薬シーズ探索を計画している.今年度は,小胞体に発現する約50遺伝子のsiRNAライブラリーを作製し,変異TTRの細胞外分泌を抑制する分子の探索を行った.その結果,変異TTRの細胞外分泌を顕著に抑制する分子の同定には至らなかった.したがって,小胞体内でのTTR四量体形成は複数の分子が協同して行っている可能性が示唆された.また,変異TTR(本来,非糖鎖付加タンパク質)の細胞内クリアランスの詳細な分子機構の解析を行い,変異TTRの糖鎖非依存的小胞体関連分解(ERAD)経路に関わる分子群を同定した.さらに,細胞は糖鎖非依存的ERAD経路が飽和あるいは障害を受けた場合でも,ミスフォールド状態のTTRを翻訳後にN型糖鎖修飾することにより,新たな分解経路(糖鎖依存的ERAD経路)を介して,異常タンパク質を効率的に排除する機構を有していることを見出した.したがって,四量体形成阻害剤により分泌阻害された変異TTRは,細胞内に蓄積することなく,上記機構により効率的にクリアランスされ得ることが示唆された.また,化合物ライブラリースクリーニングについては,バーチャルスクリーニングにより単量体に結合し,四量体形成を阻害する可能性が高い化合物をリードライク化合物から40種類(200万種類中),フラグメント化合物から18種類(50万種類中)を選別した.現在,構築したELISAを用いた96wellフォーマットの分泌評価系を用いて薬効評価を行っている.
2: おおむね順調に進展している
本年度中にsiRNAライブラリースクリーニングを終了し,化合物ライブラリースクリーニングに向けて,評価系の構築,バーチャルスクリーニングによる化合物の選別も終了しているため.また,変異TTRの小胞体関連分解機構の解明により,申請者が開発を目指す治療法の安全性を証明することができたため.
次年度は,化合物ライブラリースクリーニングを中心に行う.バーチャルスクリーニングにより選別した化合物の薬効評価を精製タンパク質,細胞レベルで行い,最終的にヒト変異TTRを発現するトランスジェニックマウスを用いて変異TTRの分泌抑制作用を評価する予定である.また,九州大学化合物ライブラリー創薬先端研究・教育基盤センターを利用して,東京大学創薬オープンイノベーションセンターが提供する既知薬理活性物質を用いた網羅的探索(利用申請済み)も同時に行い,効率的なシーズ探索を目指す.
次年度に行う化合物ライブラリースクリーニングは培養細胞を用いたELISAベースの評価系のため,研究費の大部分はTTR ELISA kitや細胞培養関連の消耗品類の購入に充てる予定である.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
Journal of Cellular Physiology
巻: 228(2) ページ: 439-446
10.1002/jcp.24149
Molecular Cell
巻: 47(1) ページ: 99-110
10.1016/j.molcel.2012.04.015
PLoS One
巻: 7(8) ページ: e43852
10.1371/journal.pone.0043852