研究課題/領域番号 |
24790080
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
南 彰 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (80438192)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シアリダーゼ / シアル酸 / 糖鎖 / 記憶 / 神経 / シナプス可塑性 / インビボ / 海馬 |
研究概要 |
シアル酸は主に糖鎖構造の末端を修飾し、個体発生時の神経回路構築において重要な役割を担う。細胞表面に発現した糖鎖は細胞内に取り込まれた後に修飾されることから、構造変化には比較的長時間(数時間から数日)を要すると考えられてきた。研究代表者は、シアル酸脱離に関与するシアリダーゼの酵素活性が神経細胞の表面で検出されることを見出した。糖鎖構造が細胞表面で制御されるのであれば、神経伝達の様なミリ秒オーダーの現象に応答して、細胞表面の糖鎖構造を迅速に変化させることが可能であると考えられる。しかし、細胞表面の糖鎖構造の変化を高速で捉えた例は無い。本研究では、「神経興奮と連動した極めて短時間における糖鎖構造の制御が、記憶形成時の神経回路形成に重要な役割を担う」との作業仮説のもと、記憶形成時におけるシアリダーゼ活性の変化をインビボ条件下で解析し、記憶におけるシアリダーゼの役割解明を目指す。 本年度でははじめに、記憶におけるシアリダーゼの関与を検討した。シアリダーゼ阻害薬(DANA)をラット海馬CA3領域に投与した結果、記憶能が有意に低下した。そこで、記憶の基礎過程である長期増強現象に対するシアリダーゼの役割を検討した。細胞外電位記録法により測定した海馬苔状線維-CA3錐体細胞間の長期増強は、DANAを添加することによって有意に抑制された。次に、インビボマイクロダイアリシス法を利用して記憶形成に伴ったシアル酸修飾糖鎖の構造変化を解析した。予備検討の結果、ラット海馬の細胞外液中に含まれるシアル酸量は、学習時に増加する傾向が得られた。 以上より、シアリダーゼがシナプス可塑性の制御を介して記憶に関与すること、また、記憶形成時にシアリダーゼ活性が変化することが示唆された。糖鎖構造が極めて迅速に修飾を受けている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に準じて研究を遂行し、シアリダーゼがシナプス可塑性の制御を介して記憶に関与すること、また、記憶形成時にシアリダーゼ活性が変化することを示唆する結果が得られた。これらの研究成果は、本研究の基礎となるデータである。また、論文や学会発表を通じて、研究成果を多数報告した。以上のことから、概ね順調に成果が得られたものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、シアリダーゼが海馬依存性記憶に関与することを明らかにした。そこで、モリス水迷路の他にも、物体認知試験法、Y字迷路、受動回避試験法(ステップスルー試験法)などの学習判定法を利用して、多面的に記憶におけるシアリダーゼの関与を検討する。また、これまでの予備検討によって、ラット海馬の細胞外液中に含まれるシアル酸量が、学習時に増加する結果が得られている。そこで、本年度は特にインビボ条件下で、ラットの行動と糖鎖構造からのシアル酸脱離との連動を詳細に検討する。 記憶形成に伴うシアル酸脱離が明らかになった時点で、神経活動と連動したシアリダーゼ活性の変化を検討する。具体的には、シアリダーゼ活性を高感度に検出することのできる人工基質を利用して、シナプス可塑性(長期増強)の誘導刺激である25 Hzの電気刺激や高濃度カリウムによる脱分極刺激を与えた場合のシアリダーゼ活性変化を検討する。また、苔状線維は他の神経終末とは異なり、亜鉛イオンを高濃度(300 microM)に含むことが知られている。そこで、苔状線維終末選択的にシアリダーゼ活性変化を検出するために、亜鉛イオン検出用の蛍光プローブ(ZnAF-2DA)で同時に染色することにより苔状線維終末を同定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に研究消耗品の購入に充てる。主要な品目の内訳として、薬物を脳内に投与するためのカテーテル(5千円/本、20本)やインビボマイクロダイアリシスに必要な微小透析膜(15千円/本、30本)、シアリダーゼ活性検出用蛍光プローブなどを含む試薬類、ラット(2.5千円/匹、200匹)などを計画している。また、日本薬学会第134年会(熊本、出張費84千円)などで研究成果を報告する予定である。
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