本研究は、収縮期高血圧を擬似的に再現した圧力ストレス環境下において、血管平滑筋細胞機能に及ぼすドコサヘキサエン酸(DHA)の影響を検討し、DHAによる循環器疾患に対する有用性の一端を明らかにすることを目的として行われている。具体的には、平成24年度に①圧力ストレス環境におけるアラキドン酸代謝系へのDHAの作用の検討、平成25年度に②圧力ストレスが血管平滑筋細胞増殖能に及ぼす影響とDHAの作用、③圧力ストレスがカルシウム代謝に及ぼす影響とDHAの作用の検討を行うこととしていた。 平成24年度の研究において収縮期高血圧を想定した圧力ストレスは、血管平滑筋細胞のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)発現を抑制することを見出したことから、平成25年度では代謝物であるプロスタグランジンI2 (PGI2)産生への圧力ストレスの影響を検討した。その結果、圧力ストレスはCOX-2発現への影響と相違してPGI2産生を促進した。この機序については引き続き検討中である。 平成25年度では、まず圧力ストレスが血管平滑筋細胞増殖能に及ぼす影響を検討した。その結果、圧力ストレスは細胞増殖能には影響を与えず、細胞容量を増加させた。さらにこの細胞容量の増加は、DHAの処理により有意に抑制された。従って、DHAには圧力ストレスによる細胞肥大を抑制させる効果があり、このことがDHAの循環器疾患への有用性に関与していることが示唆された。さらに、主にCa2+を細胞内に透過するTRPチャネル発現への圧力ストレスの影響を検討したところ、圧力ストレス単独ではTRPチャネル発現に影響を与えないものの、DHAを処理した細胞に圧力ストレスを負荷すると、TRPC1及びTRPC6 mRNA発現が抑制された。このことがDHAによる細胞内Ca2+流入抑制作用の機序と関連しているかについてはさらなる検討が必要である。
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