研究課題/領域番号 |
24790089
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
青木 直哉 帝京大学, 薬学部, 助教 (50525334)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 学習臨界期 / 刻印付け / 細胞微細構造 / BDNF |
研究概要 |
鳥類の刻印付けは、孵化後間もないヒナが近くで繰り返し曝された視覚刺激を覚え、追従する現象である。この刻印付けはニワトリヒナにおいて、実験室内でも数時間のトレーニングで獲得させることが可能である。また、刻印付けは孵化後2日間程度しか獲得することができず、明確な臨界期をもつ。しかし、どのような大脳遺伝子群の発現や神経微細構造の変化が記憶獲得や臨界期に重要であるかはほとんど明らかにされてこなかった。そこで、cDNAマイクロアレイとRT-PCRを組み合わせた網羅的な解析によって、視覚刷り込みのトレーニングの後に発現上昇する18個の遺伝子を同定した。その中で最も高い発現がみられた脳由来神経栄養因子BDNFに着目して研究を進めてきた。これまでにin situ hybridization法やイムノブロット法により刻印付けに必要とされる大脳領域(IMHA, intermediate medial hyperpallium apicale)でBDNFの発現が刻印付けの直後に高まることを見出した。さらに、BDNF受容体TrkBやその下流のAktのリン酸化が促進されることを見出した。これはBDNF/TrkBシグナリングが刻印付けに関わっていることを示唆している。BDNFは脳スライスを用いた実験から神経活動依存に合成・分泌され、その受容体TrkBを介して神経細胞の活動やシナプス接続の強化に関わるとされる。 一方、二光子励起レーザ走査型顕微鏡を用いて、刻印付け後に大脳領域IMHAの神経細胞棘突起の形態が変化することを見出した。学習に伴う神経細胞棘突起の変化はラットの海馬でも報告され、シナプスの成熟、伝達の効率化に伴うとされている。このIMHAの神経細胞棘突起の形態変化にBDNFが関わり、BDNFが刻印付けの成立に寄与していると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刻印付けは孵化後間もないヒナが繰り返し曝された刺激を覚え追従する現象である。また、刻印付けは孵化後2日間程度しか獲得することができず、明確な臨界期をもつ。これまで、刻印付けの成立や臨界期にどのような脳内機構が寄与するのかを明らかにすることを目的とした研究を行ってきた。cDNAマイクロアレイとRT-PCRを組み合わせた網羅的な解析によって、視覚刷り込みのトレーニングの開始1時間後に発現上昇する18個の遺伝子を同定した。その中にDio2(ヨードチロニン脱ヨウ素酵素タイプ2)が含まれていた。Dio2は、甲状腺ホルモンの前駆体チロキシン(T4)から活性型トリヨードチロニン(T3)への脱ヨウ素化を触媒する。このT3を刻印付けに必須な大脳領域IMMに局所注入することにより、刻印付けの臨界期を開始させる因子が、甲状腺ホルモンであることを発見した。臨界期を終えた4日齢のヒナでもIMMにT3を注入すると、刻印付けが成立するようになった。また、1日齢のヒナでT3は刻印付けトレーニングを始めると同時に脳内で増加し、このT3の増加が刻印付けの成立に必須であることを示した。これらのことから、T3は刻印付けの臨界期を開始させる因子であると結論づけた。学習臨界期は、予めプログラムされて開始されるのではなく、後天的な学習によって開始されることがわかったのである。以上の結果は、刷り込み研究におけるブレークスルーであるばかりでなく、学習や記憶の生化学的な脳内の分子基盤を明らかにした点で価値があり、その達成度は高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で刻印付けの臨界期を開始させる因子が、甲状腺ホルモンであることを発見した。今年度の研究では活性型トリヨードチロシンT3の下流としてのBDNF/TrkBシグナリングに着目する。刻印付けによってBDNF受容体TrkBやその下流のAktのリン酸化が促進されたように、T3を注入しただけでリン酸化が促進されるかと調べBDNF/TrkBシグナリングがT3の下流にあるか確かめる。また、BDNFを臨界期を終えた4日齢のヒナに注入し刻印付けが成立するか調べ、T3の下流としてのBDNF/TrkBシグナリングの刻印付け成立への重要性を示す。 また、二光子励起レーザ走査型顕微鏡を用いて、神経細胞棘突起の変化にBDNFの発現が寄与しているかを解析する。すなわち、BDNF遺伝子の発現をRNAiによって抑圧した神経細胞、及びTrkBシグナリングを抑制した神経細胞の樹状突起と棘突起に注目する。これらの実験によりBDNFの生後の学習に伴う神経回路再編成における機能を解明する。 これら一連の解析を行うことによって、刻印付け学習を可能にする分子的・形態的基盤について明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬、実験動物、プラスチック・ガラス器具などの消耗品の購入を予定している。また、学会発表や研究打ち合せのための旅費とする。
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