がん細胞のストレス防御機構を解明することは、低酸素や酸化ストレス抵抗性を標的とした新たながん治療法の開発において極めて重要である。本年度は、乳がん細胞の低酸素ならびに酸化ストレスに対する応答性を解析し、乳がん細胞の生存と細胞死におけるオートファジーの役割を解析した。まず、平成25年度に低酸素環境における生存の鍵となる分子として同定した亜鉛トランスポーターZIP6の発現量が低酸素ストレス応答性に与える影響を検討した。ZIP6特異的ノックダウン安定乳がん細胞MCF-7は、低酸素環境において、ネガティブコントロール細胞と比較して、アポトーシスの特徴を持たないPropidium iodide陽性細胞死を著しく抑制し、高い生存率を示した。ZIP6の発現量が極めて低いトリプルネガティブ乳がん細胞MDA-MB-231においても、低酸素環境において、高い生存能力を有し、細胞運動性が顕著に亢進した。また、その運動制御機構に、細胞内のイオン環境調節に主要なトランスポーターNa+/H+交換輸送体(NHE1)が必要であることを明らかにした。以上より、ZIP6は低酸素環境において発現量を巧みに変化し、直接あるいは間接的に他の分子との相互作用を介して、乳がんの悪性化進展に重要な役割を果たす可能性があることが明らかになった。 さらに、近年、抗がん剤として注目されている抗炎症薬スルファサラジン(SASP)をMDA-MB-231に処置した結果、細胞内グルタチオン量の減少に伴い活性酸素種ROSの産生が促進し、細胞増殖能を著しく抑制した。その細胞増殖抑制機序としては、オートファジーが必要なアポトーシスの誘導が関与することを明らかにした。SASPによる細胞毒性の発揮において、オートファジーは、アポトーシス型細胞死を制御できる機能があることを見出し、臨床応用に向けて重要な知見を得ることができた。
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