近年、幹細胞、前駆細胞の定着、増幅及び機能発現に関与する糖鎖-接着分子群の免疫応答の機序解明が望まれ、細胞、組織を用いた生理的な治療法である再生医療においては、幹細胞、前駆細胞をターゲットとする臓器に効率的に定着、機能させる戦略が必要となっている。本研究課題「新規糖鎖リガンドを創製した間葉系幹細胞のホーミングコントロール」では、炎症性疾患における局所的な免疫応答に関与する細胞と接着分子との二分子間相互作用に着目し、新規糖鎖リガンドを創製した幹細胞を用いた自己免疫疾患に対する新たな細胞移植療法を確立した。
E-セレクチンは血管内皮における細胞接着に関与し、白血球等がトランスマイグレーションする際の第一ステップである「テザリング」に必要となる接着分子である。本研究課題では、幹細胞表面にE-セレクチンに特異的な糖鎖リガンドを創製するために、Balb/cマウス大腿骨より骨髄系前駆細胞を採取し、高純度の間葉系幹細胞の分化・増殖を行った。これら細胞表面に恒常的に発現するCD44分子に付加した糖鎖の非還元末端のシアリルラクトサミンユニットを特異的に修飾するフコース転移酵素と供与体GDPフコースとを用い、ex vivoにおける間葉系幹細胞上の糖鎖リガンド(シアリルルイスX)の創製を試みた。糖鎖修飾は、Cutaneous Lymphocyte Antigen抗体(HECA-452)及びリコンビナントマウスEセレクチンFcキメラ抗体を用い、フローサイトメトリー及びウェスタンブロットで定性的・定量的に解析した。自己免疫疾患モデルマウスにこれらの細胞を移入したところ、糖鎖修飾を施した幹細胞は炎症部位に局在し、疾患に対してプリベンティブな機能を有することが明らかになった。幹細胞表面上の糖鎖修飾に関しては、新たな細胞移植療法としての臨床応用が期待される。
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