研究課題/領域番号 |
24790106
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
岡田 麻美 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部), その他部局等, 研究員 (30517280)
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キーワード | シナプス新生 / 電気けいれん療法 / アストロサイト / thrombospondin-1 |
研究概要 |
ラットに電気けいれん療法(electroconvulsive therapy: ECT)の動物モデルであるelectroconvulsive seizure (ECS)を施行した場合の海馬におけるシナプス新生促進因子の変化について検討を行った。その結果、ECS単回施行では、thrombospondin-1(TSP-1) mRNAの時間依存性の変化が見られた。また、複数回施行では、TSP-1 mRNAの他に、Glypican-4, SPARCといった、他のシナプス新生促進因子の増加が見られた。さらに、TSP-1については、複数回施行によりタンパクレベルでも増加することがわかった。また、アストロサイト活性化マーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)はTSP-1の増加に先立って増加していることが明らかとなり、ECSが脳内において少なくとも部分的にアストロサイトの活性化を介してTSP-1を初めとするシナプス新生促進因子を増加していることが明らかになった。一方、抗うつ薬の慢性投与ではTSP-1やGFAPの増加は見られなかった。従って、TSP-1誘導作用はECTの作用メカニズムに特異的に関与している可能性が示唆された。 TSP-1はアストロサイトから分泌されるシナプス新生促進因子として最初に発見され、シナプス構造の新規形成とシナプス前部の活性化を行うが、シナプス後部の成熟には関与していない。一方、Glypican-4やSPARCはシナプス後部の成熟に関与しているシナプス新生促進因子であることが報告されている。以上のことから、ECSはシナプス新生の一連の過程に影響を与えていることが示唆された。 以上の結果は、Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatryに受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画において、動物を用いたin vivoでの検討は、予備的検討で見出していたTSP-1の他にもGlypican-4やSPARCといった他のsynaptogenesis促進因子がECSで誘導される可能性を明らかにすることができた。また、抗うつ薬慢性投与との比較も行い、TSP-1の誘導作用がECTの作用メカニズム特異的に関与している可能性も明らかにした。ここまでの結果を学会発表し、さらに学術論文として受理させることもできた。 さらに、平成26年度に計画している、ヒト血液サンプルにおけるTSP-1の測定に関しては、研究協力者の支援により、目標としていた30例を超えて、同意を得たECT施行患者37名、年齢と性別について統制された健常者34名から血液を採取することができた。また、血液サンプルを用いたTSP-1のELISA法での測定に関する条件検討も終えることができた。 従って、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25-26年度にかけて収集された血液サンプルを匿名化かつ患者情報がブラインド化された状態で、TSP-1をELISA法で測定し、患者群と健常者群で比較する。患者群において、抗うつ薬あるいは電気けいれん療法(ECT)前後でのTSP-1量を解析する。血液中シナプスマーカーについても同様に検討する。平成25-26年度に得られた研究結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度までは、動物を用いたin vivoでの検討を中心に研究費をあてたが、予定よりも少ない予算で進行し論文作成に至ったので、次年度使用額が生じた。 平成26年度は血液サンプルを用いたELISA法での測定を中心に研究費をあてる計画である。平成25年度未使用額は今年度の使用にあてる。
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