研究課題/領域番号 |
24790107
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
鳴海 哲夫 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (50547867)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アミド結合等価体 |
研究概要 |
ペプチドは微量で強力な生理活性を有するものが多いことから、古くからペプチド性医薬品の開発研究が行われているが、ペプチドは主鎖骨格を形成するペプチド結合や構成分子であるアミノ酸の側鎖に起因する加水分解性や凝集性などが問題となり、医薬品への直接展開は容易ではない。そこで、本研究ではこれら問題を解決すべくペプチド結合をクロロオレフィンで置換したクロロアルケン型ジペプチドイソスター(以下CADI)の合成および機能評価を行い、いまだ有効なものが見出されていないペプチド結合の基底状態を模倣したペプチドミメティックの創製を目的とする。本年度の研究ではクロロアルケン型ジペプチドイソスターの合成研究に取り組み、以下のような成果を得た。 1) trans-アミド模倣型CADIの立体選択的合成法の開発 Ellmanらによって報告された光学活性なイミンから誘導したγ位に二つの塩素原子を有するα,β-不飽和カルボニル化合物に対し、アミノ酸の側鎖に相当するアルキル基を有する有機銅試薬を作用させることで、立体特異的なアリル位アルキル化反応が進行し、目的としたtrans-アミド模倣型CADIの合成に成功した。興味深いことに本反応はδ位の不斉点に由来する1,4-遠隔不斉誘起によって反応が進行することがわかった。 2) cis-アミド模倣型CADIの立体選択的合成法の開発 cis-アミド配座を模倣したE型クロロアルケン骨格の構築法について検討したところ、γ位に二つの塩素原子を有するα,β-不飽和カルボニル化合物に対し、有機銅試薬の調製に用いる銅塩や添加剤によってクロロオレフィンの幾何異性が制御できることを見出した。さらに反応機構について精査したところ、本反応の選択性は基質の電子的および立体的要因によって大きく影響を受けることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
trans-アミド模倣型CADIの立体選択的合成法の開発研究では、期待通り立体選択的な合成法の開発に成功した。また、本反応は有機銅試薬による新規な1,4-不斉転写を契機とするジアステレオ選択的アルキル化反応であることから、学術的な意義はきわめて大きい。これらの結果から、当初計画したtrans-アミド模倣型CADIの合成研究において大きく進展した。さらに、当初の計画では二年目に計画していたcis-アミド模倣型CADIの合成研究では、これまでほぼ皆無であった鎖状化合物のE型クロロアルケン骨格の構築に成功した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
1)cis-アミド模倣型CADIの立体選択的合成法の開発 平成24年度の研究において見出したE型クロロアルケン骨格の構築法を応用して、本反応をγ位に二つの塩素原子を有するアルケニルアジリジンや アリルジクロジド類に適用することで、cis-アミド配座を模倣した(E)-CADIsの合成法を開発する。また、本反応における(E)-選択性の発現機構を解明し、さらにはα位アルキル基の導入を目指して、求電子剤の添加や銅試薬の活性化など種々の反応条件を精査する。 2)環状ペプチドを用いたペプチド主鎖の二面角(φ,ψ)の等価性についての評価 ペプチドの立体構造はペプチド結合面同士の二面角(φ,ψ)で決まり、基底状態ミメティックはこの二面角を忠実に再現することが求められる。そこで、CADIを環状ペプチドに導入することで、その模倣能を検討する。具体的には、二面角が高度に制御されたペプチドモチーフである環状ペンタペプチドテンプレート[cyclo(-D-Xaa-Yaa-Arg-Nal-Gly-)]3のD-Xaa-Yaa配列にCADIを導入し、NMRによる構造解析を行う (Fig. 1)。また、アルケン型やフルオロアルケン型ミメティックも合成し、同様に解析することで種々のイソスター導入に伴う構造変化を詳細に検証する。さらに本テンプレートはエイズやがん転移など様々な疾患に関与するCXCR4リガンドに由来することからCXCR4結合活性を評価し、構造と活性の相関の有無を調べる。 これら二つの課題を進め順調に進んだ場合には、これまで報告されている種々のイソスターに加え、今回合成したCADIsをコラーゲンの三重らせん構造に応用し、ペプチド結合の立体電子効果が分子構造に与える影響を原子レベルで解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでとは異なる新しい領域(創薬研究を指向した反応開発)の研究を立ち上げたばかりのため、設備備品として反応の精査および不斉収率の決定に必要な高速液体クロマトグラフ(HPLC)を購入する予定である。また、本年度は継続する反応開発研究に加え、生理活性ペプチドへの応用研究へと展開するために、これまでの消耗品費に加え、保護アミノ酸や樹脂などペプチド合成用の合成試薬を購入する予定である。それ以外は消耗品費を主たる経費とする予定である。さらに、本研究により得られた研究成果の外部への発信のため、国内学会での発表旅費や論文校閲費も併せて計上した。
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