研究課題/領域番号 |
24790108
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
岡 夏央 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50401229)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | カルボニル基のリン酸化 / 酵素応答性分子 / 抗がん剤 / 蛍光プローブ / アデニロコハク酸合成酵素 / CTP合成酵素 / 核酸の生合成 |
研究概要 |
核酸の生合成経路には、カルボニル基がリン酸化によって活性化され、アミノ基などに変換される反応が複数存在し、抗がん剤などの創薬の観点から興味が持たれている。本研究は、これらの酵素反応中間体であるカルボニル基がリン酸化されたヌクレオチドに着目し、そのリン酸部位を様々に修飾した分子の化学合成法の確立を試みた。この様な酵素反応中間体アナログは、酵素に応答して機能を発現する新しい生理活性化合物として働くことが期待される。 我々はごく最近、独自に開発した求核性が極めて小さい酸性活性化剤CMPTを用いるホスホロアミダイト法によって、イノシンのカルボニル基がリン酸ジエステル化された化合物の合成に成功している。そこで、本反応を用いてイノシンのカルボニル基に対し、より幅広いアルキル基やアリール基を有するリン酸ジエステルの導入を試みた。31P NMRによる反応の追跡や、生成物の詳細な解析を行ったところ、リン酸部位の脱保護の際、保護基として用いたシアノエチル基が脱離せず、リン酸部位に導入する予定のアルキル基が脱離する副反応が起こることを見出した。この副反応は、ホスホロアミダイトから脱離したジイソプロピルアミンの求核攻撃による脱アルキル化であるとの仮説を立て、この副反応を抑制すべく様々な検討を行ったところ、ジイソプロピルアミンの求核性を低下させるために、より酸性度が高い酸性活性化剤であるdimethyl(cyanomethyl)ammonium triflateを用い、更に1,1-dimethylcyanoethyl基を保護基とすることによって、この副反応を完全に抑制し、71-87%の単離収率で様々なアルキル基をリン酸部位に持つカルボニル基がリン酸ジエステル化されたイノシンの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、我々が既に確立していたCMPTを活性化剤とするホスホロアミダイト法によって、アデニロコハク酸、シチジン三リン酸、グアノシン一リン酸の3種類の核酸の生合成中間体アナログの合成を行う予定であった。これらの生合成中間体アナログのリン酸部位に、代表的な抗がん剤であるヌクレオシド一リン酸誘導体や、蛍光プローブなどを導入することによって、酵素反応に応答して機能を発現する新しい生理活性化合物の開発が可能であると期待される。しかしながら、リン酸部位に導入可能な置換基の検証を行うべく、様々なアルキル基を持つホスホロアミダイトを用いてイノシンのカルボニル基のリン酸化を行ったところ、上記の様にリン酸部位の脱保護の際、保護基として用いたシアノエチル基が脱離せず、リン酸部位に導入する予定のアルキル基が脱離する副反応が起こることを見出した。しかしながら、先に述べた通り、その後の詳細な反応条件の検討により、酸性活性化剤とリン酸部位の保護基の変更によってこの副反応の完全な抑制に成功し、良好な収率で様々なアルキル基をリン酸部位に持つカルボニル基がリン酸ジエステル化されたイノシンの合成に成功した。この様に、予測していなかった副反応を見出したため、当初の研究計画よりやや遅れているものの、CMPTを活性化剤とする方法に比べて、より幅広いリン酸部位の置換基に適用可能なカルボニル基のリン酸化法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に、我々が開発したイノシンのカルボニル基のリン酸化法を最適化し、リン酸部位に様々な置換基の導入が可能となった。そこで、まず当初の標的化合物であるアデニロコハク酸、シチジン三リン酸、グアノシン一リン酸の3種類の核酸の生合成中間体アナログの合成を試みる。これらの化合物は、カルボニル基上に加えて水酸基もリン酸化されているため、そのリン酸基の適切な保護基についての検討を行う。また、これらの標的化合物は複数の負電荷を有する化合物であり、精製が困難であることが予想される。そこで、リサイクル機能を有する逆相、及びイオン交換HPLCによる精製方法の確立を試みる。 これらの標的化合物に加え、本年度は、核酸の生合成中間体そのものの化学合成を試みる。これらの化合物には、カルボニル基がリン酸モノエステル化されたヌクレオチド、及びカルボニル基がアデノシン一リン酸化された化合物の2種類が存在し、前者は、既に上記の様に確立しているカルボニル基のリン酸ジエステル化法を用いてリン酸部位を2つの保護基で保護した化合物を合成し、これらの保護基を除去することによって合成できると考えられる。後者は、アデノシンホスホロアミダイト誘導体をリン酸化剤とする方法によって合成を試みる。 更に、カルボニル基のリン酸化を経る酵素反応は、核酸オリゴマー上、特にtRNAの修飾塩基の生合成においても見出されており、この様な反応は、tRNAの進化や機能解明に関する観点からも極めて興味深い。そこで、本年度は、DNA自動合成機を用いるカルボニル基がリン酸化された核酸オリゴマーの合成法の開発を試みる。 合成、単離した化合物は、対応する酵素によって処理し、酵素の基質として働くかどうかについての検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の様に、反応生成物の精査によって見出された副反応のため、当初予定していたアデニロコハク酸、シチジン三リン酸、グアノシン一リン酸の3種類の核酸の生合成中間体アナログの合成には至っていないが、副反応を抑制すべく様々な検討を行った結果、従来我々が確立していたCMPTを活性化剤とするカルボニル基のリン酸化法に比べてより実用的なリン酸化法の確立に至った。そのため、標的化合物の精製に必要なHPLC用リサイクルユニット、及びこれらの化合物の酵素反応の検討に必要な超純水製造装置を次年度に購入することとした。これらに加え、次年度は化合物の合成に必要な有機合成試薬や消耗品、及び、新しく確立したリン酸化法を用いての合成が期待される、カルボニル基がリン酸化されたヌクレオチドを含む核酸オリゴマーの合成に必要なDNA自動合成機などの購入に研究費を使用する計画である。
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