核酸の生合成経路には、カルボニル基がリン酸化によって活性化され、アミノ基などに変換される反応が複数存在する。これらは、生物学や創薬科学などの観点から興味深い。本研究は、これらの酵素反応中間体であるカルボニル基がリン酸化されたヌクレオチドに着目し、そのリン酸部位を様々に修飾した分子の化学合成法の確立を試みた。この様な酵素反応中間体アナログは、新しい酵素応答性分子として働くことが期待される。 我々は平成24年度に、独自に開発したCMMTを酸性活性化剤とするイノシンのカルボニル基の効率的なリン酸ジエステル化の手法を確立している。平成25年度は、まずこの新しいリン酸ジエステル化法を用いて種々の置換基を有するリン酸ジエステルのカルボニル酸素上への導入について種々検討し、本反応の基質適用範囲の大幅な拡張に成功した。特に、蛍光物質をリン酸ジエステル部位に導入したイノシン6-リン酸誘導体は、核酸の生合成経路に存在する酵素に応答して蛍光発光する新しい酵素応答性分子としての応用が期待される。なお、イノシンのカルボニル酸素原子がリン酸ジエステル化された化合物の合成は類を見ないものであるため、その分子構造、特にリン酸ジエステル化の位置の証明はIR、NMR等によって慎重に行った。その結果、リン酸化に伴うラクタムからラクチムへの特徴的な変化がIRスペクトルに見られた。加えて、13C NMRにおけるP-Cカップリングの解析とHMBCなどの2次元NMR解析から、リン酸化の位置はカルボニル酸素原子上であることを証明した。 最後に、カルボニル酸素原子上のリン酸ジエステルの水溶液中での安定性について調査し、pH 7付近ではほとんど加水分解されないことを見出した。この様な安定性に関する知見は、カルボニル基がリン酸化された分子を水溶液中や細胞中で用いる際に重要なデータとなることが期待される。
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