研究課題/領域番号 |
24790110
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
兒玉 哲也 名古屋大学, 創薬科学研究科, 准教授 (00432443)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 核酸 / 有機化学 / 核酸医薬 / 薬学 / 創薬科学 |
研究概要 |
核酸塩基の回転角が異なる人工核酸を数種類合成し、そのオリゴ核酸の熱力学的安定性を精査することで、「核酸塩基の回転角と核酸高次構造の安定性の関連」を明確化し、人工核酸設計に際して押さえるべき新たな指標となるかを明らかにするため、平成24年度は以下の項目を実施した。 まず、8-アザ-7-デアザプリン類および7-デアザプリン類を核酸塩基として有するLNA類縁体を合成し、その核酸塩基の回転角を見積もった。その結果、7-デアザプリン類を核酸塩基として有するLNA類縁体は、二重鎖RNA中で観察される回転角とほぼ同じ回転角が熱力学的に安定である一方で、8-アザ-7-デアザプリン類を核酸塩基とするLNA類縁体は二重鎖DNA中で観察される回転角に近い回転角が安定である事が明らかとなった。また、その回転角と二重鎖核酸形成能との間には明らかな相関があり、DNA中で観察される核酸塩基の回転角をもつLNAが形成する二重鎖核酸は、RNA中で観察される核酸塩基の回転角をもつLNAが形成する二重鎖核酸より不安定であった。 また、安価なD-グルコースまたはD-マンノースを出発原料として、テトラヒドロピラン骨格をもつ2',5'-結合型DNA類縁体とシクロヘキセン骨格をもつLNA類縁体のヌクレオシドのミリグラムスケールでの合成にそれぞれ成功した。 さらに、核酸塩基の回転角変化と円二色性の関係を理解するため、DNAやRNAに加えて、LNAやテトラヒドロピランを糖骨格としてもつ新たな人工核酸、そして新たにセレノLNAを合成してそれぞれの円二色性を測定した。その結果、円二色性は糖部構造に影響されず、グリコシド結合周りの核酸塩基の回転角を反映することが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的を達成するため本研究実施期間内に核酸塩基の回転角を議論する事ができる新規な人工ヌクレオシドを数種類合成することを目標としたが、既に4種類の新規な人工ヌクレオシドの合成に成功した。うち半分の人工ヌクレオシドは、先行して研究が進んでいる人工核酸類とは基本骨格が異なる全く新しい人工ヌクレオシドである。加えて、円二色性とグリコシド結合周りの塩基の回転角との関係の議論を広く一般化する事を目的に、セレン原子を核酸糖部にもつ人工ヌクレオシドを新たに合成した。当該項目に関しての達成度は、当初の計画以上の進展があった。 また、合成した人工ヌクレオシドのうち3種類をオリゴ核酸へ導入した。一般的なオリゴ核酸合成ではその合成サイクルにリン原子を酸化する過程が含まれるが、本研究で合成した人工ヌクレオシドには歪んだ二重結合やセレノエーテル結合、さらには電子密度の高い核酸塩基をもつものがあり、それぞれ望まない官能基が酸化される懸念があった事から、まずセレン原子をもつ人工核酸をもちいて合成を検討した。その結果、汎用される合成サイクルにおいては望まない酸化は進行せず、効率的な人工核酸合成を達成できる事がわかった。すべての人工ヌクレオシドに対しての検討はできなかったが、本項目については当初研究計画を概ね達成できた成果といえる。 さらに、様々な人工ヌクレオシドの円二色性を測定し、核酸塩基の回転角との関係を考察した。その結果、天然のリボヌクレオシドやLNAヌクレオシド、新たに合成したセレノLNAやBsNAヌクレオシドはいずれもほぼ同じ円二色性を示し、人工ヌクレオシドの円二色性はグリコシド結合周りの核酸塩基の回転角(chi, X)を反映し、糖部骨格の構造に依存しない事が強く示唆された。 このように、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
新たに糖部と塩基部との間に共有結合を形成することで核酸塩基の回転そのものを制御した人工ヌクレオシドの合成に着手し、核酸塩基が回転する(揺らぐ)ことの重要性について考察する。その合成は、市販の安価なグルコースを出発原料とする。核酸塩基の回転を制御するための糖部ー塩基部間 の共有結合は、ラジカル反応もしくはアセタール化により構築する。本研究ではチミジン誘導体を合成する。あわせて、本年度合成に成功したシクロヘキセン型のヌクレオシドを百ミリグラムのスケールで合成できる経路を確立する。 また、これまでに合成した人工ヌクレオシドをオリゴ核酸へと導入し、二重鎖や三重鎖核酸、または四重鎖核酸の形成能を熱融解実験を実施するほか、円二色性等を解析することで、多角的に核酸高次構造の特徴についての情報を収集する。加えて、研究コンセプトの確からしさを検証するため、これまでの研究で比較検討用に使用しているモデル核酸配列を用いて核酸高次構造形成に関連する熱力学パラメーターを算出し、これまでの研究成果と比較する。RNAを標的とする人工核酸としての価値が高い2’,4’-BNA/LNAは、糖部立体配座が固定されていることにより二重鎖形成時のエントロピー損失が少ないことを我々は明らかにしており、本研究コンセプトの検証に利用できると考えられる。 上述の研究を着実に実施し、得られる結果をこれまでに得られている成果と比較することで、核酸塩基の回転角と核酸高次構造の熱的安定性の関連を明確化でき、人工核酸設計に際して押さえるべき新たなポイントとして提案できるか明らかとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定のある研究費が生じた理由は、ヌクレオシド合成の進展が予想外に大きかったことで、ヌクレオシド合成に割いた時間が多く、その一方でより多くの研究費用が必要なオリゴ核酸を用いた検討項目が当初計画より減った事が主な要因と考えられる。 本研究費は当初の予定通り、人工ヌクレオシドやオリゴ核酸合成に必要な消耗品の購入を目的として主に使用する。平成25年度に請求する費用は新たに合成を開始する人工ヌクレオシドの合成やオリゴ核酸の機能評価をするために使用する。 研究費の執行上、問題となる課題や大きな研究計画の変更はない。
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