研究課題/領域番号 |
24790122
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
西村 良夫 安田女子大学, 薬学部, 助教 (60431516)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | β,β-二置換α-アミノ酸 / リパーゼ触媒 / 非対称化 / 1,3-ジオール / アジリジン / 不斉四級中心 |
研究概要 |
本研究は、リパーゼ触媒を用いた 1,3-ジオール誘導体の非対称化によって不斉 4 級炭素を構築し、ペプチド医薬および低分子医薬の合成原料として有用なヘテロ原子が β-位に結合したβ,β-二置換α-アミノ酸誘導体の効率的合成法を開発するものである。平成24年度は予備的実証研究として、糖尿病治療薬候補化合物ラニレスタットの新しい実用的合成法を開発することを目的に研究を進めた。これと平行して、ヘテロ原子を有するジヒドロピリミジン誘導体の合成研究についても申請者は研究を進め、合成化学的に関連する知見を得てきた。 申請段階では、ラニレスタットの合成中間体である1,3-ジオール誘導体の非対称化反応(本研究全体に関係する鍵反応)は酢酸イソプロピル溶媒中リパーゼ触媒存在下、酢酸ビニルを作用させると収率83%、91%eeでアセチル化体が得られていた。その後、アセチル化体を研究計画通りに順次変換してイミド誘導体としたのちに1級アルコール部のカルボン酸への酸化を試みたが、立体障害のためか効率的に反応せず、原料が回収されるか複数の生成物の混合物を与えるのみであった。酸性条件での酸化反応は窒素原子上のBoc基が脱保護されてしまうために行えなかった。そこで窒素原子上の保護基について再検討し、酸性条件に耐えることができるCbz基を用いることとして、まずは1,3-ジオール誘導体を合成した。非対称化反応を試みた結果、Cbz基を用いることで光学収率を95%eeに高めることができた。また、グラムスケールにおいても光学収率と化学収率を損なうことなく進行することも確認できた。その後イミドを合成し、アルコール部の酸化をJones酸化条件で行ったところ高収率でカルボン酸に変換できた。過去の全合成報告例の中間体まで残り2工程を残している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は糖尿病治療薬候補化合物ラニレスタット(アルドース還元酵素阻害剤)の新しい効率的合成法を開発することを目的に研究を進めた。窒素原子上の保護基をBoc基からCbz基に変更した新しい基質を用いることで、合成中間体である1,3-ジオール誘導体の非対称化反応の光学収率を95%eeに高め、実用的なレベルにできたと考えている。また、その後の合成を当初の研究計画どおりに進めていき、過去の報告例と同じ共通合成中間体まで2工程を残すのみである。ラセミ体の合成とキラル分析はすでに終わっているので、この2工程が進行することもすでに確認済みであり、光学活性体の形式合成はまもなく完了する。95%eeの光学異性体の立体配置は未決定であり確認する必要があるが、類似の基質の反応例がいくつか報告されており、いずれも申請者が望む方の立体配置で不斉反応が進行しているため、本研究の場合もほぼ確実に同じものと考えている。以上から初年度の計画は完全には完了していないが、次年度の計画を平行して進めており、多くの新しい知見が蓄積している。従って研究課題全体から見れば、順調に進んでいるものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、硫黄、窒素、酸素のヘテロ原子が β-位に結合したβ,β-二置換α-アミノ酸誘導体の効率的合成法を開発する。平成24年度に予定していた研究と同時進行させており、まずはα位にメチル基を有する誘導体の合成研究を進めた。 ラニレスタットの合成研究により得られた知見により、窒素原子上の保護基の効果(3次元構造、電子的配置)が不斉反応に大きく影響することがわかった。そこで、Boc基, Cbz基, 4-pentenoyl基、phtalimide基を選択して1,3-ジオール誘導体の合成を行い、これらの効率的な供給ルートを確立した。ここでは、後に行う脱保護条件の多様性も考慮して、保護基を選んでいる。非対称化物の光学異性体の分析条件を検討し、3つの保護基についてはとりあえず確立した。現在、Cbz基を用いることで87%eeで進行する反応条件を見いだしているが、今後は各基質における詳細な反応条件(溶媒、温度、リパーゼ種、アセチル化剤)を検討して不斉反応の最適条件を見いだす。キラルなアジリジン共通中間体を介して硫黄、窒素、酸素のヘテロ原子を導入するとともに、両鏡像異性体の作りわけを行う。その後、メチル基以外のα位炭素上の置換基について適用範囲を調べ、立体障害や官能基共存性についても系統的に調べていく予定である。本研究の方法論は、創薬研究におけるインパクトが大きいので、幅広い基質適用範囲を有する実用的方法論となることを実証したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、強力マグネチックスターラー、オイルバス、電子分析天秤、カラム管や注射筒などの基本的な有機反応装置関連物品等を中心的に購入し、実験設備を充実させることができた。 平成25年度は前年度の未使用分の繰越金を含め 1,300 千円程度の直接経費を元に研究を進める。当初の研究計画通り、硫黄、窒素、酸素のヘテロ原子が β-位に結合したβ,β-二置換α-アミノ酸の多様な誘導体を合成するために有機試薬、無機試薬、反応溶媒、重溶媒、アルゴンや水素などの消耗品が中心となる。必要に応じてキラルカラムなどを購入する(消耗品費、設備備品等: 1,000 千円程度)。そのほか、全体の成果を国内での学会や学術論文にて発表するために、校閲費、印刷費、機器修理費や通信費等に使用する (旅費等: 3,000 千円程度)。
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