研究概要 |
HIV-1のもつタンパク質Pr55Gagは、ミリストイル化を受けた後、細胞膜リン脂質であるホスファチジルイノシトール4,5-2リン酸{PI(4,5)P2}を介して宿主の細胞膜に結合する。Pr55Gagの膜移行によりHIV-1ウイルスの粒子形成が開始される。この結合を阻害する化合物を開発することが本研究の目的である。 研究代表者は、Pr55Gagの細胞膜結合部位であるMA蛋白質に対して、高リン酸化化合物であるイノシトール6リン酸(IP6)が、ジアシルグリセロール部位をもたなくても水溶性アナログであるDi-C8-PI(4,5)P2に匹敵する結合能をもつことを示した。さらにIP6部位に種々修飾を入れたジアシルグリセロール部位を、リン酸ジエステル結合を介して導入したPI(2,3,4,5,6)P5リン酸アナログを合成し、MA蛋白質との結合活性をBIACOREにて評価した。PI(2,3,4,5,6)P5リン酸アナログは生体内に存在し得ない人工化合物である。 平成25年度は、PI(2,3,4,5,6)P5アナログをさらに合成し、アナログ群とMA蛋白質との構造活性相関を行った。 種々合成した化合物の中で、ジアシルグリセロール体であるDi-C7-PI(2,3,4,5,6)P5とMAとの結合においてKd=0.25μMが得られ、Di-C8-PI(4,5)P2 (Kd=16.9 μM)よりも約70倍、またIP6 (Kd=25.7 μM)よりも約100倍強く結合した。構造活性相関より、1)イノシトール6リン酸を持つこと、2)グリセロール部位をイノシトールの1位に導入すること、3)モノアシル体よりもジアシルグリセロール体であること、4)アルキル体よりもアシル体であることがMA蛋白質との結合に重要であることが示された。 本研究は新規抗HIV薬創製の基礎になりうると考えられる。
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