本研究は最重要生薬であるカンゾウについてメタボローム解析および生物活性試験の相関を解析し,メタボロームデータを用いた生薬品質評価法を確立すること,またこれをもとに市場に流通する野生品と今後流通が予想される栽培品の相違を評価する事を目的とした. 富山大学,小松かつ子教授および栃本天海堂,山本豊博士から分譲頂いた中国,モンゴル産野生品および申請者が栽培した植物体の計66種類のウラルカンゾウを試料とした.当該試料の熱水抽出エキスをLC/MSを用いたメタボローム解析および生物活性試験に供した. 生物活性試験として抗炎症作用の指標となるリポ多糖(LPS)で刺激したマウスマクロファージ細胞の一酸化窒素(NO)産生抑制率を評価したところ,グリチルリチン(GL)含量が局方規定以上の試料でもNO産生抑制活性が低いものが見られた.またLPSで刺激しないマクロファージ細胞にカンゾウ熱水抽出エキスを処理した場合,いくつかの試料のエキスにおいてNO産生が確認され,条件によっては免疫賦活化作用を有する可能性も示唆された. メタボロームデータを説明変数とし,NO産生抑制率を予測する回帰モデルをPLSにより作成した.回帰モデルによるNO産生抑制率の予測値と実測値の間には正の相関が見られ,メタボロームデータから活性が予測可能であることが示唆された.さらに回帰に寄与した成分を示すリグレッションベクトルの値を確認したところ,GL以外の成分も大きな値を示し,これらの成分も抗炎症作用に寄与する可能性が示された.LPS無刺激でのマクロファージNO産生誘導についても同様の解析を行い,GL以外の成分の寄与が大きいことが示された. 以上の結果からカンゾウの品質評価にはGL含量のみでは不十分であり,またエキス成分を網羅的に解析したメタボロームデータを用いることにより,より精度良く予測できる可能性が示唆された.
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