メタロチオネイン(metallothionein、以下MT)は、金属イオン結合能と活性酸素種除去能を有する低分子タンパク質である。このMTは、線虫おいてインスリンシグナルを介した老化に抑制的にかかわることが報告されている。一方、雌性MTノックアウト(MTKO)マウスが、高脂肪食の摂取により肥満化することを見出している。そこで本研究では、MTが哺乳類におけるインスリンシグナルを介した加齢性疾患にかかわるかどうかを研究することとした。 まずMTの老化に対する影響を検討するため、野生型およびMTKOマウスの寿命を測定した。研究期間内に全マウスが寿命に至らなかったため、途中経過を報告する。生存分析法で検討したところ、MTKOマウスは、野生型と比較して雌雄とも有意に寿命が短いことが明らかとなった。次にMTKOマウスの各種パラメータを解析した。43週齢において、野生型とMTKOマウス間の体重、肝重量および血漿インスリン値に有意な差は認められなかったが、脂肪組織重量は、MTKOマウスで有意に高かった。また腹腔内糖負荷試験においても野生型とMTKOマウスは同等の結果を示したが、高脂肪食を13~16週間与えたマウスにおいて、野生型と比較してMTKOマウスは、糖代謝能が高く、インスリンシグナル亢進による老化が促進されやすい状態にあった。 次に、MT遺伝子欠損による加齢性疾患、特に肥満症と脂肪蓄積への寄与を解明することを目的とし、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞株を用いたin vitro脂肪細胞分化モデルにおけるMTをsiRNAで発現抑制した際の脂肪細胞分化に与える影響について検討した。その結果、脂肪細胞分化刺激時にMT遺伝子発現は誘導されるが、MT siRNA処理による発現抑制した場合、脂肪蓄積量は有意に増加した。このことから、MTは、脂肪細胞分化に抑制的にはたらく可能性が示唆された。
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