17β-エストラジオール(E2)およびE2と化学構造が類似した化合物を認識する分子インプリントポリマー(MIP)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラムに充填して確立したエストロゲン活性予測システムを用いて,数種類の化合物のエストロゲン活性値(E2の相対値(%))を求めた。次に,提案予測手法で得られた活性値の妥当性を,既存のバイオアッセイ法(酵母ツーハイブリッドアッセイ法)で得られた活性値(国立環境研究所のデータベースを利用)との比較により評価した。 提案予測手法で得られたエストロゲン活性値は,エチニルエストラジオール72%,エストロン31%,エストリオール64%であった。既存のバイオアッセイ法による,これらの化合物のエストロゲン活性値は,それぞれ56%,16%,0.45%であり,両者を比較すると,エストリオールでは乖離が認められたものの,他の被検化合物の活性値は概ね同様に活性値の低下が認められた。一方,ビスフェノールAやノニルフェノールなど,エストロゲン活性を有すると報告されている内分泌攪乱化学物質については,提案予測手法における保持時間がボイドマーカー(アセトン)よりも早く,E2-MIP充填カラムに保持されないと判断した。すなわち,当該化合物のエストロゲン活性は陰性であると判定した。 以上の結果から,抗体などの機能性タンパク質に比べて容易に調製が可能な人工分子認識素子MIPと汎用性に優れたHPLCを組み合わせることで,オンラインで種々の化合物のエストロゲン活性をスクリーニング的に予測できることが示唆された。ヒト健康や生態系に及ぼす化学物質の影響を解明するための初期リスク評価では,エストロゲン活性が重要な指標の一つとして位置づけられると考えられるため,本研究で確立した手法は学術的に意義があると結論できる。
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