研究課題
初年度は、植物体への異種遺伝子導入は、イネ種子(玄米)のゲノムに野生株とは異なるメチル化をもたらしていることを見出した。近年、GM技術が新たな育種手法として認知されるようになったが、作物管理の不手際やコンプライアンスの欠如は、遺伝子情報の付帯しない未承認GM作物の市場での氾濫をもたらすに至る可能性がある。我が国では、安全性未審査のGM作物の流通は食品衛生法により認められていない。現在、安全性審査済みのGM作物の検出については、定性PCR法やリアルタイムPCR法(「GM食品の安全性について2011」、厚労省医薬食品局食品安全部)が確立しているが、未承認GM作物については、標的とすべきコンストラクト構造が不確定であることから、未だ手探りの状態が続いているのが現状である。そのような中で、玄米の野生種子とGM種子を調べたところ、ゲノムのメチル化パターンがまったく異なっていることを発見した。種子一粒毎についてそのゲノムDNAのメチル化パターンとヒストン修飾パターンを分析し、それらのデータを統合して多変量解析(PCS解析)し、エピゲノム情報としてのプロファイリングを行い、種子エピジェネティクスの分子基盤の確立を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
乾燥状態の種子のゲノムDNA試料は、イネ由来actin 1プロモーター制御下でGFPを発現させるコンストラクト構造を持つpSTARA R-4-sGFP及びpSTARA R-5-sGFPプラスミドを導入したGMと非GM日本晴イネの玄米から調整した。GMと非GM種子は、すでにGFPを発現・非発現が確認された株より収穫されたものを使用したため、容易に実験を開始することが可能であった。actin 1プロモーターは、日本晴ゲノム解析より得られた配列を基にDNAメチル化修飾パターンをバイサルファイト法を用いて内在型と導入型で比較することができた。また、同様にイネとは別のシロイヌナズナ由来ALSプロモーターを有するpSTARA A-2-sGFPを導入したGM玄米のALSプロモーター及びactin 1プロモーターを解析することが可能であった。内在型配列は、公開されているゲノムDNA配列を、また、GMイネに導入されたコンストラクト配列は、インプランタイノベーションズ(株)から提供されたものを参照し解析を遂行することができた。DNAメチレーション部位の特定は、MSAP法とバイサルファイト処理を行ったDNAをシーケンス解析するBSS法を使用することで広範囲の解析が可能であった。得られたメチル化配列は、次のリアルタイムPCR用のメチル化及び非メチル化特異的プライマーの設計に供し、リアルタイムPCRを繰り返し、多変量解析に必要なデータを収集することが可能であった。また、ヒストン修飾のプロファイリングは、化学修飾特異的かつヒストンバリアント特異的な抗ヒストン抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて解析可能であり、予想通り、一連の工程で得られるCt値とEnd-point値をPCS解析に付し、エピゲノム情報のプロファイリングを行うことができた。
初年度において確立したゲノムDNAメチル化及びヒストンアセチル化に関するデータをPCS解析に付し、種子エピゲノム情報のプロファイリングを行う方法を次年度の発芽前後における環境刺激が修飾バラエティーに及ぼす影響に関する解析に応用する。すなわち、野生玄米及びGM玄米を発芽させる際に、種子を浸漬する溶液の薬剤(スターナ)濃度に加えて、温度(0~40℃)、pH(pH1~5)、溶存酸素濃度(50~80%)及び紫外線強度(UV-A,UV-B, UV-C)のバリエーションを設定し、発芽前後における供試種子の種子間でのゲノムDNAのメチル化の領域特異性及びヒストンの化学修飾のバラエティーについて調べ、必要に応じてPCSプログラムを用いて、多変量解析を行う。並行して、供試試料からゲノムDNAを抽出し、ヌクレオチド組成について調べる。組成分析はLC/MS/MS装置(Thermo社製TSQ Quantum Ultra)を用いて行う。この項目の研究を遂行することによって、野生玄米及びGM玄米を、簡易迅速に峻別する視点を切り開く。
種子の発芽前後における環境刺激に関して、条件検討を行うため実験環境の整備を行う。ゲノムDNAのメチル化及びヒストンアセチル化のデータを収集するためのMSAP法及びBSS法試薬、リアルタイムPCR試薬、ChIP法に使用する抗体、LC/MS/MS装置に使用するカラムの購入を中心とした消耗品を補充する。また、MeDIPを使用してメチル化DNAを回収し、次世代シーケンサーを使用した解析を計画しており、必要な経費を支出する予定である。
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