研究課題/領域番号 |
24790139
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武隈 洋 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (00396293)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 薬物代謝 / グルクロン酸抱合 / グルクロン酸転移酵素 |
研究概要 |
今年度は,UGT活性評価のためのモデル薬物の一つとして,生細胞内でチトクロームP450での代謝を受けないため,生細胞内でのUGT活性のみを評価しやすく,また多くのUGT分子種の基質となる7-ヒドロキシクマリンを用いることにした。この薬物について,未変化体およびそのグルクロン酸抱合体の細胞内濃度を測定できる感度で,定量法を確立した。 次に,生細胞内のUGT活性を評価する系として,ブタ腎臓細胞由来LLC-PK1細胞にヒトUGT2B7遺伝子を導入して安定発現細胞を作製した。この系で7-ヒドロキシクマリンをメディウム中に添加して,経時的に細胞内外の未変化体および抱合体濃度を測定した結果,未変化体の取込,UGTでの代謝,排出蛋白質を介した抱合体の細胞外への排出の一連のプロセスの中で,UGTによる代謝過程が律速であることを確認し,細胞外中の抱合体の測定により簡便に生細胞のUGT代謝活性の評価できることを明らかにした。この生細胞系で排出蛋白質の阻害剤存在下で,同様に検討したところ,抱合体の総生成量が有意に低下したことから,抱合体によるUGTの阻害が生じており,代謝活性に大きな影響を与えることを示した。現在,この系でProteo tuner shield systemを用いて,UGTの発現量を制御したときの活性およびオリゴマーの割合の評価に入るところである。 また,並行してヒト子宮頸がん由来HeLa細胞にヒトUGT2B7およびUGT1A9遺伝子を導入し,発現スクリーニング時にmRNA発現量の大きく異なる株をいくつかピックアップして培養中である。タンデムのベクターを使用して,発現量を調整する前の簡易的な系として用いられないか検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,ミクロソームなどの細胞画分によるUGT代謝活性とin vivo活性との間に認められる乖離の要因を明らかにすることである。その要因として,UGTにより産生された抱合体によるUGT阻害効果とUGT-UGT(CYP)蛋白質間相互作用の影響を仮説として挙げている。その解明のためのツールとして,生細胞での評価系としてLLC-PK1細胞にヒトUGT2B7遺伝子を導入して安定発現細胞を作製した。この系ではLLC-PK1細胞が有している排出系蛋白質の作用のため,肝細胞における抱合反応と同様に抱合体が細胞外に排出されるため,細胞内に蓄積しない。また,今回の検討によりUGTによる抱合反応が律速であることが明らかになったので,細胞外に排出された抱合体を定量することで,簡便にUGT代謝活性を評価できる。またメディウム中に排出系の阻害薬を共存させて,抱合体を蓄積させ,抱合体がUGTを阻害するか否かの評価も可能である。この系を用いて,抱合体による阻害が認められるものと認めらないもので,in vivoでの活性を比較することで,抱合体による阻害がin vivoとin vitro活性の乖離の要因か否かが判別できる。 また,HeLa細胞にヒトUGT2B7およびUGT1A9遺伝子を導入し,その発現量の異なる株の安定細胞も作成しており,二つ目の仮設であるUGT-UGT間の蛋白質相互作用を評価するための基盤の一つはできている。 以上のことから研究の進捗は概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在培養中のヒトUGT2B7を導入したHeLa細胞を用いて,細胞破砕液および生細胞系での代謝実験を行い,両者の代謝活性を比較する。また,発現量に大きな差のある細胞株を複数用いてUGTの発現量と抱合活性の間に比例関係が認められるか検証する。さらに,ヒトUGT2B7導入HeLa細胞にUGT1A9遺伝子を翻訳シグナルとプロモーターを改変した種々の組み合わせのベクターまたはProteo tuner shield systemに対応したベクターを用いて導入する。後から導入したUGT1A9の発現量の違いとモノマーやヘテロマーなど複合体形成の種類とその割合を評価し,UGT1A9およびUGT2B7の活性変動との関係性を生細胞系と細胞破砕系の両者で明らかにしていく。また,このとき基質として当研究室で光学異性体間相互作用が観察されたカルベジロールを用い,この相互作用が細胞内のタンパク質相互作用が生じる系でどのように変動するか否かを検証する。カルベジロールはUGT1A1の基質とならないので,相互作用の結果UGT2B7に対する親和性,光学異性体選択性の変動がより明確になるものと思われる。また,UGT1A9の良好な基質であるミコフェノール酸を用いて抱合活性を評価することにより,UGT2B7と1A9の相互作用に及ぼすUGT1A9の活性変化を評価する。 一方,HeLa細胞系では代謝物が細胞外に排出される系が存在しなく,細胞内に蓄積されていくため,その点を解消したUGT2B7導入LLC-PK1細胞を用いて,種々の基質の抱合活性における細胞破砕系と生細胞系での違いを明らかにする。さらにこの評価系に排出蛋白質の阻害剤を添加して実験することにより,抱合体の阻害の影響を定量化する。 また,現在最もヒトのin vivoを反映すると考えられる,ヒトヘパトサイト系での代謝実験を行い,細胞培養系と比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は,研究継続に必須なUGT蛋白質の定量のための抗体や細胞培養に必要なメディウム,血清,試薬類,分析用HPLCカラムなどの消耗品にその多くを充填する。また,培養細胞系とヒト組織の比較のために,ヒト浮遊凍結肝細胞の購入を予定している。なお,一部前年度分が繰越されているが,そのほとんどが年度末に購入した消耗品や試薬類であり,支払が翌年度になったための見かけ上のもので,実質上予定通り使用している。
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