研究課題/領域番号 |
24790142
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
児玉 進 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (20621460)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 核内受容体 / 異物応答 / 免疫系 / 炎症 / 細胞シグナル |
研究概要 |
核内受容体プレグナンX受容体(PXR)は、肝臓及び腸管の主要な生理機能の調節を担う低分子応答性の転写因子である。近年、PXRの機能喪失や異常と免疫系の活性亢進及び炎症性疾患との関連、またPXRの活性化に伴う炎症軽減作用が報告され、新たに免疫系調節への関与が注目されている。 本年は、PXRによる免疫系調節の作用機序についてコンカナバリンA(ConA)誘発性マウス肝障害モデルを用いて解析を実施した。T細胞マイトジェンConAの静脈投与は、免疫反応を惹起して肝臓特異的に障害を誘発する。野生型マウスと比較して、Con A投与24時間後においてPxr欠損型マウスでは、著しい肝細胞壊死の増悪化や肝臓組織内への好中球の浸潤亢進が認められ、これらは血中ALT値の変動レベルと正に相関していた。次いで、げっ歯類PXR活性化物質プレグレノロン16α‐カルボニトリル(PCN)を野生型マウスへ前投与した場合、前投与なしと比較してConA投与9時間後において有意な肝細胞壊死の軽減、血中ALT値の改善及び免疫・炎症関連遺伝子群のmRNAレベルの低下が認められた。更に、肝細胞壊死や血中ALT値の変動が検出されないConA投与3時間後においては、好中球遊走に関連する遺伝子群のmRNAレベルの上昇、及び肝臓組織への好中球浸潤の有意な上昇が認められた。一方、これらはPCN前投与により著しく抑制されることを見出した。 以上の結果、PXRの遺伝子欠損に伴いマウスのConA誘発性肝障害に対する感受性が高まること、また、ConA投与により惹起される一連の免疫反応過程において、PXRの活性化薬の投与は肝臓組織への好中球浸潤の抑制に作用し、その結果、肝障害レベルを軽減する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①PXRが作用する免疫関連細胞・組織の同定、②免疫反応シグナルにおけるPXRの標的分子の同定、③PXRによる免疫・炎症関連標的分子の調節機序の解明、④PXRの免疫メンテナンス作用におけるヒト‐マウス間の種差の検討の実施を計画している。 平成24年度では、野生型マウス及びPxr欠損型マウスを用いて肝特異的に免疫性障害を誘発するConA誘発性肝障害モデルを確立した。マウス炎症モデルについて当初の計画から変更点(リポ多糖-肝炎症、デキストラン硫酸ナトリウム-腸管炎症)があるが、短時間で効率良くマウスに肝炎症を誘導するConA誘導性肝障害モデルに特化することにより、マウスはPXRの機能喪失に伴ってConA誘発性肝障害に対して高い感受性を示すことを新たに見出した。次いで、確立した実験モデルを用い、PXR活性化物質の前投与によるConA投与で誘発される免疫性肝障害を抑制する作用機序を新たに見出した。とりわけ、ConA投与によって惹起される肝障害の発症機序において、PCN前投与は、好中球遊走の制御に関わる遺伝子群の発現を抑制すること、従って、肝臓組織への好中球の浸潤抑制を介して肝障害の軽減に作用する可能性が示唆された。また、マウス肝臓から肝実質細胞と非実質細胞、また、脾臓細胞を単離し、それらの初代培養を用いたin vitro免疫反応系を確立した。 以上の点より、①及び②の項目について計画当初から解析実施項目に小さい変更はあるが、計画当初と相応の成果を得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果を基に、特にPXRによる免疫系調節の詳細な作用機序の解明に重点を置き、計画に沿って研究を進める。 本年度の研究成果より、PXR機能の喪失に伴いマウスはConA誘発性肝障害に対して高い感受性を示すことから、その免疫性肝障害に対する構成的な抑制機能が示唆された。この点に着目して免疫性肝障害の発症過程における遺伝子発現の経時的及び網羅的解析を実施し、PXR機能に起因する免疫・炎症関連分子の変動を軸に免疫系調節におけるPXR標的分子を体系的に明らかにしていく。 本年度、in vitro免疫反応系を確立したが、in vivo マウスモデルとの比較において、結果が乖離する場合が認められた。従って、in vivoマウスモデルを中心に、ex vivoモデルと組み合わせ解析を進める。次いで計画に沿い、PXRによる免疫・炎症関連標的分子の調節機序の解明は、コードする遺伝子のプロモーター解析を中心に進めていく。これらを基に、in vivoマウスモデルとex vivoモデルを用いて、PXR機能、同定した標的分子及び肝障害レベル間の関連性を標的分子及びその中和抗体の投与実験を実施して評価・検討する。 更に、ConA以外の免疫性肝障害モデルを確立し、PXR機能の肝障害に対する感受性を検討する。複数の免疫性肝障害モデルに対する感受性を評価・検討し、PXRの免疫系調節の全容を明らかにしていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、研究計画及び推進方策に沿いながら平成25年度請求額を研究遂行に使用する予定である。その内訳として、実験動物関連費、細胞実験関連費、炎症誘発物質、qRT-PCR関連試薬、PCRアレイ関連試薬、siRNA及び抗体関連試薬の購入を中心に、また、学会参加など本研究の成果発表に使用する。
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