本研究では、抗HIV薬の長期服用で起こる脂質代謝異常の発現メカニズム解明を目的とする。 研究方法として、兵庫医科大学病院でHIV感染症と診断された対象患者63名について、診療記録をもとに年齢等の背景情報や臨床検査値、使用薬等を調査した。また、尿検体を採取し、グルココルチコイド活性化酵素11β-hydroxysteroid dehydrogenase type1(11β-HSD1)の活性をLC/MS/MSで評価した。11β-HSD1はコルチゾンをコルチゾールに変換する反応に関与し、最終代謝産物としてコルチゾール由来のtetrahydrocortisol(THF)とallo-tetrahydrocortisol(A-THF)、コルチゾン由来のtetrahydrocortisone(THE)が尿中に排出される。11β-HSD1の活性は、THFとA-THFの濃度の和をTHEの濃度で除した比(THF+A-THF/THE)で評価でき、代謝異常時はこの値が高いとされている。 平成27年度は、対象患者の尿中代謝産物の測定を完了し、臨床調査結果と統合して以下の結果を得た。 抗HIV薬使用群は、脂質異常症治療薬の併用が多い傾向があり、治療前と比較してLDLコレステロール値の有意な上昇がみられた。また、LDL上昇群では、THF+A-THF/THEやウエスト径が高く、抗HIV薬使用期間が長い傾向があった。対象患者に使用された抗HIV薬は12種類で、TVD(テノホビル+エムトリシタビン)、EPZ(アバカビル+ラミブジン)中心の多剤併用療法が多く施行され、TVDによる併用療法はEPZに比べTHF+A-THF/THEが高い傾向がみられた。 以上の結果から、抗HIV薬の多剤併用療法による脂質代謝異常には11β-HSD1が関与すること、抗HIV薬の種類や使用期間により代謝異常発現リスクが異なる可能性が示唆された。
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