研究課題
昨今の新型インフルエンザの世界的流行でも明らかなように、依然として感染症は人類に立ちはだかる大きな脅威である。患者の生活の質・有効性・安全性を考慮すると、非侵襲性投与が可能であり、粘膜面および全身系の免疫賦活化作用をもつ『経口ワクチン』が理想的な感染予防法であるものの、消化酵素による分解を回避しつつ腸管粘膜免疫組織に抗原を効率良く送達する方法は極めて困難である。そこで本研究は、腸管粘膜免疫組織パイエル板にclaudin-4(CL-4)が高発現していることに着目し、独自のCL-4指向性分子(消化酵素耐性能を有する)を有効活用することで、初めてのパイエル板指向性経口ワクチンを開発することを目指し、平成24年度は以下の成果を得ることができた。1、当グループが独自に開発したCL-4 binderであるC-CPE (ウエルシュ菌下痢毒素の受容体結合領域であるC末側14 kDaのポリペプチド断片) をprototypeとし、C-CPEのC末端側に存在しCL-4への結合性に重要なアミノ酸残基を改変したC-CPE 構造変異体ライブラリを作製した。当ライブラリから従来のC-CPEに比してCL-4への結合性が約10倍以上も優れた、C-CPE変異体の取得に成功した。2、新たに作製したC-CPE変異体による抗原送達能を評価するため、C-CPE変異体にモデル抗原である卵白アルブミン(OVA)を連結させた融合タンパク質を作製した。抗腫瘍効果の観点から、本融合タンパク質のワクチン効果を経鼻投与により検証した結果、既存のC-CPEとの融合タンパク質よりも高い免疫賦活化作用および抗腫瘍ワクチン効果を確認した。3、CL-4への抗原送達能に優れたC-CPE変異体を修飾したリポソームを作製し、CL-4への結合性を確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は腸管粘膜免疫組織パイエル板にCL-4が高発現していることに着目し、独自のCL-4 指向性分子を有効活用することで、初めてのパイエル板指向性経口ワクチンを開発することを目指すものであり、平成24年度は1、新規CL-4 binderのスクリーニング、2、CL-4 binder修飾リポソームの作製を計画し、以下のようにおおむね順調に計画が遂行できた。1、新規CL-4 binderのスクリーニングに関しては、消化酵素耐性能をもちCL-4へ結合性を示すC-CPEをもとに作製したC-CPE構造変異体ライブラリから、従来のC-CPEよりも約10倍以上も結合性が優れた変異体を複数取得することができた。さらに、取得した変異体のin vivoにおける抗原送達能を確認するため、モデル抗原であるOVAを融合したOVA-C-CPE変異体を作製し、本融合タンパクが従来のC-CPEを用いたものよりも高い免疫賦活化作用およびワクチン活性を有していることを明らかにした。当初はin vitroだけの評価を計画していたが、in vivoにおいても有効性を示すことができた。2、CL-4 binder修飾リポソームの作製に関しては、従来のC-CPEを利用することによりリポソームへのC-CPE修飾条件を検討し、最適な条件を得ることができた。この条件をもとに、取得したC-CPE変異体を修飾したリポソームを作製し、本リポソームがCL-4発現細胞に結合することを確認した。以上の結果から、当初の計画が遂行できていると考えている。
平成24年度は、計画していたCL-4高親和性C-CPE変異体の取得に成功し、本変異体を修飾したリポソームを作製することができた。そこで、平成25年度はパイエル指向性CL-4 binder修飾リポソームを作製し、本リポソームが経口ワクチンとしての活性を有するかを検討する。1、パイエル板指向性リポソームの作製:平成24年度に作製したCL-4 binder修飾リポソームの作製条件をもとに、モデル抗原(OVA)を封入したリポソームの作製およびCL-4結合性評価を行う。また、パイエル板指向性に優れたCL-4 binder修飾リポソームの選定を行う。ローダミンなどの蛍光標識された脂質を用いてCL-4修飾リポソームを調製し、in vivo imagingアナライザーを用いたin vivoでの腸管内動態を解析する。また、必要に応じてパイエル板へのリポソーム取り込みを蛍光顕微鏡もしくはフローサイトメトリー解析により解析し、リポソームのパイエル板集積性を評価する。2、パイエル板指向性経口ワクチン技術の創製:1の検討において高いパイエル板指向性を有していたCL-4 binder修飾リポソームにモデル抗原OVAを封入し、経口投与に伴う腸管粘膜、鼻粘膜、膣粘膜などの各種粘膜免疫賦活化作用、および全身性の細胞性・液性免疫賦活化作用を解析する。高い抗体産生が認められたリポソームについては、必要に応じてTh1系、Th2系の免疫応答を詳らかにする。さらに、終盤には実際の疾患モデル抗原であるエイズウイルス関連抗原、もしくはインフルエンザHA抗原などの抗原封入リポソームを作製し、疾病抗原特異的免疫応答の解析も視野に入れる。
補助事業期間:平成25年度~平成26年度の助成金について、以下の使用計画を予定している。物品費:1,500,000円, 旅費:400,000円, 人件費・謝金:100,000円, その他:100,000円、計直接経費2,100,000円, 物品の購入計画:なし
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