昨今の新型インフルエンザの世界的流行でも明らかなように、依然として感染症は人類に立ちはだかる大きな脅威である。患者の生活の質・有効性・安全性を考慮すると、非侵襲性投与が可能であり、粘膜面および全身系の免疫賦活化作用をもつ『経口ワクチン』が理想的な感染予防法であるものの、消化酵素による分解を回避しつつ腸管粘膜免疫組織に抗原を効率良く送達する方法は極めて困難である。そこで本研究は、腸管粘膜免疫組織パイエル板にclaudin-4(CL-4)が高発現していることに着目し、独自のCL-4指向性分子(消化酵素耐性能を有する)を有効活用することで、初めてのパイエル板指向性経口ワクチンを開発することを目指し、以下の成果を得ることができた。 1. 当グループが独自に開発したCL-4 binderであるC-CPE (ウエルシュ菌下痢毒素の受容体結合領域であるC末側14 kDaのポリペプチド断片) の構造変異体ライブラリを作製し、当ライブラリから従来のC-CPEに比してCL-4への結合性が約10倍以上も優れた、C-CPE変異体の取得に成功した。 2. 新たに作製したC-CPE変異体による抗原送達能を評価するため、C-CPE変異体にモデル抗原である卵白アルブミン(OVA)を連結させた融合タンパク質を作製し、抗腫瘍ワクチン効果を経鼻投与により検証した結果、既存のC-CPEとの融合タンパク質よりも高い免疫賦活化作用および抗腫瘍ワクチン効果を確認した。 3. C-CPE変異体修飾リポソームを作製し、CL-4への結合性を確認した。また、OVA封入C-CPE変異体修飾リポソームを作製し、本リポソームのin vivoにおける動態を評価した結果、パイエル板への移行を確認した。さらに一部のリポソームが抗原の取り込みを担うM細胞にも到達していることを確認した。
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