近年、種々の呼吸器系疾患に対して、局所作用を期待した肺投与型ドラッグデリバリーシステムを構築する試みが盛んに行われているが、肺線維症における肺内動態についての研究は皆無である。本研究では肺線維症発症時における、薬物および製剤の肺組織分布特性の変化を解明し、その変化に対応可能となる新たなドラッグデリバリーシステムを構築することを目的に、種々の検討を行い、以下の結果を得た。 (1) 肺線維症治療薬の候補化合物の薬理効果の評価:抗線維化薬の候補化合物のスクリーニング法の確立を目的とし、ヒト肺線維芽細胞であるWI-38およびヒト肺胞上皮細胞であるA549を用いたin vitro実験系による肺線維症モデルを確立した。胸腺因子ホルモン(FTS)について検討したところ、これらの細胞に対する抗線維化作用を有していることが明らかとなった。 (2) 肺胞構造の変化が薬物の肺組織分布特性に与える影響:ブレオマイシン誘発肺線維症マウスおよびラットを作成し、種々の分子量のモデル化合物や種々の粒子径の微粒子製剤を肺投与した場合の肺内動態を検討した。結果、肺線維症モデル動物においては、分子量250000の高分子であっても、肺中から血中へ吸収されてしまうことが示された。一方、微粒子製剤の場合は、粒子径約100 nmのものが最も肺内滞留性に優れていた。これらの動態特性は、肺線維症の進行に伴う肺胞上皮細胞の傷害が要因であることが示された。 (3) 肺線維症の治療を指向したドラッグデリバリーシステムの構築:肺線維症の発症に深く関与する肺線維芽細胞への薬物送達を目的とし、微粒子製剤の構築を行った。線維芽細胞増殖因子(bFGF)のレセプター認識ペプチドを修飾したリポソーム製剤を調製することによって、標的指向化を達成した。抗線維化薬であるピルフェニドンを封入することで、抗線維化作用の増強が可能となった。
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