研究課題/領域番号 |
24790184
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研究機関 | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
研究代表者 |
久家 貴寿 独立行政法人医薬基盤研究所, 創薬基盤研究部, 研究員 (20551857)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 大腸癌 / セツキシマブ / EGFR / タンパク質リン酸化 / キナーゼ / プロテオーム / バイオマーカー / 細胞接着阻止 |
研究概要 |
大腸癌などの癌治療薬である抗EGFR抗体薬(セツキシマブなど)の効果予測バイオマーカー探索研究を行った。 先ずは、大腸癌培養細胞株24種類を抗EGFR抗体薬の感受性に基づいて分類した。耐性株については、KRAS G12V変異株、BRAF E600V変異株、それ以外の株に細分類した。抗EGFR抗体薬に対する感受性はWST-8試薬を用いた増殖抑制試験で評価した。 抗EGFR抗体薬の耐性化メカニズムの一つとして、EGFRシグナル伝達機構の下流キナーゼもしくは代替キナーゼの活性化がある。そこで、感受性株と耐性株におけるキナーゼの活性化状態を調べることにした。活性型Mek抗体や活性型Akt抗体を用いたWestern blot解析により、BRAF E600V変異株ではMekの活性化が、KRAS G12V変異株ではAktの活性化が実際に観察された。現在、40種類以上の活性型キナーゼ抗体を用いたWestern blot解析を進めており、キナーゼ活性化プロファイリングによって抗EGFR抗体薬の効果予測が可能かどうかを今後検討する。 EGFRシグナル伝達機構で発現制御されるタンパク質も抗EGFR抗体薬の効果予測マーカーになる可能性がある。そこで、抗EGFR抗体薬を処理した細胞のiTRAQプロテオーム解析を行った。抗EGFR抗体薬感受性DLD1細胞の解析では、7216のタンパク質が同定され、抗EGFR抗体薬で大きく発現変動するタンパク質を多数見出した。これらをバイオマーカー候補とし、今後検証する。 抗EGFR抗体薬の作用メカニズムについても検討した。その結果、抗EGFR抗体薬の作用に細胞密度が大きく影響すること、抗EGFR抗体薬は細胞接着阻止を誘導することを明らかにした。細胞接着阻止のメカニズムが異常になった癌細胞は抗EGFR抗体薬に対して耐性になる可能性があるため、今後検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の計画は、大腸癌培養細胞株や大腸癌切除標本を抗EGFR抗体薬感受性に基づいて分類し、タンパク質発現やリン酸化シグナル変動を調べ、抗EGFR抗体薬の効果予測バイオマーカー候補を探索することであった。これまでに大腸癌培養細胞株の抗EGFR抗体薬感受性分類を完了させ、それら培養細胞株のプロテオーム解析を進めている。 タンパク質発現解析については、先ずは抗EGFR抗体薬で発現変動するタンパク質の探索手法を確立した。抗EGFR抗体薬を処理した大腸癌細胞株からタンパク質を抽出し、トリプシン消化、iTARQ標識、強陽イオン交換クロマトグラフィー分画した後、LC-MS/MSで同定・定量する。DLD1大腸癌細胞株を用いた解析では、7216種類のタンパク質を同定・定量し、抗EGFR抗体薬処理で変動するタンパク質を多数見出すことに成功した。当初計画していたマイクロアレイ解析は計画から外した。 リン酸化シグナル変動解析については、解析手法を網羅的リン酸化プロテオーム解析から、キナーゼの活性化プロファイリング解析に変更した。キナーゼ活性化プロファイリングの方が、直接的に結果を解釈することができる。現在、活性型キナーゼ抗体40種類以上を用いたWestern blot法で、抗EGFR抗体薬感受性株および耐性株を解析している。プロファイリングは平成25年度の初頭に終了する予定である。 大腸癌手術標本を用いた解析については、抗EGFR抗体薬を投薬した患者の大腸癌切除標本収集(6検体)を進めたが、解析には至らなかった。 抗EGFR抗体薬の感受性試験が難航したため、研究の進展がやや遅れた。細胞密度や培地条件など細胞周辺環境で抗EGFR抗体薬の効果が変動するため、薬効判定が難しかった。しかし、それらを検討する過程で、細胞接着阻止誘導が抗EGFR抗体薬の作用メカニズムの一つであることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前半中に抗EGFR抗体薬の効果予測バイオマーカー候補を確定し、後半にそれらの検証を行う。 バイオマーカー候補の探索は平成24年度から継続する。抗EGFR抗体薬処理時に変動するタンパク質の探索と、キナーゼ活性化プロファイリングによる抗EGFR抗体薬関連キナーゼ解析を引き続き行う。培養細胞と臨床検体を用いた探索を進めているが、これまでの進捗状況などを考慮し培養細胞での探索を優先する。 検証方法としては、先ずは、抗EGFR抗体薬の感受性に基づいて分類した大腸癌培養細胞株を用いて行う。Western blot解析もしくは質量解析計を用いたSelected Reaction Monitoring(SRM)法で、バイオマーカー候補の発現やキナーゼ活性が抗EGFR抗体薬感受性と相関するかどうかを調べる。培養細胞を用いた検証でバイオマーカー候補を絞り込んだ後に、千葉大学医学部附属病院などで収集された大腸癌組織標本を用いて検証する。 平成24年度に抗EGFR抗体薬の作用メカニズムの一つとして細胞接着阻止誘導を見出している。これまでに見出した抗EGFR抗体薬効果予測バイオマーカー候補の中には細胞間接着関連タンパク質なども存在しているため、それらバイオマーカー候補が細胞接着阻止誘導に関与しているのかどうかを検討する。バイオマーカー候補のノックダウンや過剰発現が、抗EGFR抗体薬により誘導される細胞接着阻止に与える影響を調べる。抗EGFR抗体薬の作用メカニズムを明らかにし、バイオマーカー候補の理論的な裏付けを得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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