研究概要 |
登上線維-小脳プルキンエ細胞投射系では細胞体での線維間競合を経て、単一の優勢線維による樹状突起支配が確立する。細胞体では登上線維シナプスの除去が進行する一方で、バスケット細胞による抑制性独占的支配が形成されるが、両者の機能的な因果関係については未だ不明であった。さらに発達期小脳ではプルキンエ細胞体直下の顆粒細胞層において、除去過程の登上線維終末が観察され、顆粒細胞層に存在する抑制性介在ニューロンの一つルガロ細胞と近接している様子が観察されている。以上の背景から本研究では発達期プルキンエ細胞体での抑制性ニューロンの関係に着目し、抑制性ニューロンの機能阻害下における登上線維シナプス除去過程の解析を行い、中枢神経回路における「特定の細胞内ドメインで起こる興奮性入力と抑制性入力による競合」の存在の実験的な証明を行なった。具体的にはレンチウイルスやGFP発現モデルマウスを用いた抑制性介在ニューロンの可視化、神経標識法を用いた登上線維の可視化を行い発達期小脳の観察を行い、以下の所見を得た。 ①発達期プルキンエ細胞体において、登上線維終末の排除とバスケット細胞由来の抑制性終末の増加が相補的に起こっていることを定量的に示した。②発達期小脳ではプルキンエ細胞体とルガロ細胞が密接している様子が観察され、この傾向は発達が進むにつれて減少していった。③発達期小脳で一過性に見られるプルキンエ細胞-ルガロ細胞密着領域では登上線維終末が高頻度に観察された。 以上の所見はプルキンエ細胞体における登上線維終末がバスケット細胞軸索によって排除され、ルガロ細胞へと引き継がれることを示唆する結果であり、この研究成果は日本神経学会Neuro2012, Neuro2013、第118回日本解剖学会総会・全国学術集会で発表された。
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