小腸パイエル板は管腔内の抗原を取り込みIgA産生を制御することで粘膜免疫応答の調節を行う。その過程には濾胞被蓋上皮層のM細胞が重要な役割を担う。M細胞の分化と成熟は通常の腸管上皮細胞とは異なり、上皮下の細胞との相互作用が重要であると言われているが、その実態は不明である。申請者らのこれまでの研究から、膜突起構造の形成に関わる分子であるM-SecがM細胞に発現していることが明らかになっている。この構造が細胞間相互作用を仲介する新規の構造であることに注目し、本研究計画ではM-Secの機能を解析することで、M細胞分化における細胞間相互作用機構を分子レベルで解明することを目的としている。 初年度に報告したM-Secが局在するM細胞基底膜側の突起構造について、電子顕微鏡による微細構造の観察を行った。その結果、この突起構造は基底膜の孔を通り、基底膜下の細胞と接していることが確認できた。M細胞の分化にはこの基底膜下の細胞が発現するRANKLが重要である。そこで、M細胞に発現する受容体RANKと基底膜下細胞のRANKLが膜突起を介して直接相互作用する可能性を検証した。免疫電子顕微鏡観察、共焦点顕微鏡観察によって基底膜下の膜突起にRANKが局在しているのを確認できた。これらのことから、M細胞分化におけるRANKL-RANKのシグナル伝達は基底膜下の物理的な相互作用機構で起こっていることが示唆された。これは膜突起構造の生体内での機能を示唆する初めての報告である。 しかしながら、初年度のM-Secノックアウト細胞の解析ではM細胞分化に大きな影響は認められず、膜突起構造の形成にも影響は認められなかった。以上のことからM-Secの機能を補うような分子が存在すると想定し、今後M-Sec相互作用分子の解析を進めることで、膜突起形成機構を解明していきたい。
|