研究概要 |
腎虚血再灌流(I/R)傷害は腎移植において重要な課題である。尿細管上皮へのI/R障害にはオートファジー(AP)/リソソーム系の関与が報告されているが、傷害時のAPやリソソームプロテアーゼ(LP)については不明な点が多い。腎虚血再灌流(I/R)傷害の分子機構を明らかにするため、今回、プロテアーゼ阻害剤投与や代表的なリソゾームタンパク質分解酵素であるカテプシンB(CB)、L(CL)欠損マウス、およびI/R傷害の感受性の高い皮髄境界部の近位尿細管特異的カテプシンD欠損(RPTEC-CDKO)マウスを用いて、腎I/R傷害を解析した。I/R負荷後、近位尿細管上皮細胞(RPTEC)にAPの誘導と、CD活性の増強が認められた。CB,CL欠損マウスではI/R負荷による腎障害に野生型との差は認めなかったが、I/R負荷時にプロテアーゼ阻害剤を用いてシステインおよびアスパラギン酸プロテアーゼ活性を抑制したところ、3日後の腎傷害は有意に抑制された。RPTEC-CDKOマウスの皮髄境界部上皮細胞を電顕的に観察すると、負荷なしの腎臓においてもオートファゴソーム(AV)を始め、fingerprint像(FP)や輪状に集積した小胞構造(LER)が認められ、LERの中央部にはしばしばAVが見られた。RPTEC-CDKOマウスにI/R負荷をかけると、皮髄境界部のRPTECにはAV、FP、LERが増加し、特に、細胞死の形態を示す細胞では細胞質全域がこれら構造物に占められていた。さらにI/R後の腎組織傷害は野生型に比べRPTEC-CDKOマウスにて有意に重度であった。以上の結果より、腎I/R傷害は尿細管上皮に誘導されるAPの強さに依存すること、またその下流にあるリソソームプロテアーゼも関与することが明らかとなった。
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