造血器官である骨髄の脂肪髄化は、生理的現象と考えられる一方、造血障害の原因となっており、本来骨髄間葉系幹細胞が有する骨、軟骨、脂肪など種々の細胞への分化能が失われ、脂肪細胞のみに分化するようになった結果と推察される。そこで老化促進マウス(Senescence-accelerated mice: SAM)のうち、造血微小環境の機能低下を示すSAMP1および骨髄の脂肪変性を認めるSAMP6マウスを用い、加齢に伴う骨髄脂肪変性を観察した。 骨髄の脂肪細胞前駆細胞(CFU-Ad)数は10wマウスと比べ、加齢マウス(35週齢以上)においてSAMP1でもSAMP6でも増加していた。線維芽細胞前駆細胞(CFU-F)数はSAMP1では加齢に伴い増加、SAMP6では減少を認めた。骨芽細胞前駆細胞(CFU-Ob)数はSAMP1において加齢に伴う増加を認めたが、SAMP6では若齢マウスでも検出困難であった。これらの結果、SAMP6ではCFU-F数が減少しCFU-Ad数が増加することで脂肪変性を起こしている可能性が示唆され、間葉系細胞分化が骨髄造血に重要な役割を担っていることを明らかにした。 さらに動脈硬化により脂肪髄化が起こることが示されているため、低酸素環境飼育により脂肪髄化を誘導可能か実験を行ったところ、CFU-Ad数は増加傾向を示した。 この低酸素飼育実験の対象としてC57BL/6マウスの造血能を確認したところ、低酸素状態が続く間多血状態を維持していることを20週にわたり観察した。ところが、赤血球系の造血前駆細胞数は低酸素飼育開始後2週の間しか増加を認めなかった。興味深いことに骨髄の赤血球系前駆細胞のアポトーシスの割合を観察したところ、長期飼育マウスではその割合が減少しており、すなわち間葉系細胞による無効造血の調節機構の存在により多血状態が維持されていることが新たに明らかとなった。
|