研究課題/領域番号 |
24790214
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
津元 国親 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70353331)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Naチャネル / 心臓興奮伝播 / 虚血性心疾患 / ブルガダ症候群 / 致死性不整脈 / コンピュータシミュレーション / 数理モデル / 計算生理学 |
研究概要 |
本研究は、心室筋細胞におけるNaチャネルの細胞内分布の変化が、致死性不整脈の発生に及ぼす影響をコンピュータシミュレーションによって調べることを目的としている。心筋Naチャネルの細胞内発現分布は、先天的(遺伝子変異)ないし後天的(虚血等)な要因により影響を受ける。本年度は、ブルガダ症候群における不整脈誘発のトリガーになると考えられているPhase-2リエントリー発生のシミュレーション解析を実施し、発生条件の定量化を試みた。細胞内Naチャネル分布を系統的に変え、シミュレーションを実施した結果、心室筋細胞の側面でのNaチャネル発現が極度に減少し(全体の5%以下)、細胞末端(介在板)にNaチャネルの過度な発現集中が起きる時に、Phase-2リエントリーが誘発されることが明らかとなった。心筋細胞の側面膜でのNaチャネル発現の低下が、脱分極異常に繋がる可能性を示唆するものである。さらに、虚血条件下で観測されるNaチャネルの細胞内局在リモデリングの病態生理学的意義についての検討を加えた。この細胞内局在リモデリングは、組織興奮性の低下に繋がることが明らかとなった。さらに、I群抗不整脈薬によるNaチャネル遮断が組織興奮性の低下に強く影響し、伝導障害の発生を促す可能性を示すことができた。 一方、不整脈誘発機序の解明の為、心筋線維モデルを心筋シートモデルへ拡張し、その興奮伝播シミュレーションを実施した。検討の第一段階として、生理学的な興奮伝播速度が達成できるかを検証した。その結果、心筋細胞の長軸方向の興奮伝播速度は生理的範囲にあったが、短軸方向の伝播速度に関しては生理的な伝播速度を達成できなかった。そのため、不整脈誘発機序の解析の前に、心筋シートモデルの構築様式を再検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる目標であった、Phase-2リエントリーの発生機序の解析と、発生条件の定量化はほぼ予定通り完了した。当初は、ブルガダ症候群に代表される先天性不整脈と、Naチャネルの細胞内分布変化との関連性を検討していた。詳細な解析を進める過程で、虚血等の後天的な要因によるNaチャネルの細胞内分布変化が、I群抗不整脈薬の催不整脈作用に寄与する可能性が見出された。この一連の結果は、心筋梗塞患者へのI群抗不整脈薬投与による生命予後悪化の理由を理論的に説明することを可能にした。これは当初予想していなかった成果である。
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今後の研究の推進方策 |
現状、修正点はあるものの研究遂行上に大きな問題点はなく、計画の変更の必要性は無い。今後も研究計画に沿って研究を実施する。 不整脈誘発機序の解析を進めるための第一段階として、生理的な状態の興奮伝播現象を心筋シートモデルを用いて再現する必要があるが、一部再現することができていない。これまでの研究で明らかになったのは、「心筋細胞の形態」から創発される興奮伝導機構をモデルに導入することが、より現実的な心臓興奮伝導を再現するために必要であるということである。そのため、これまで用いてきた心筋細胞の形態(シリンダー形状)を、本来、細胞側面部分に存在する介在板を新たに設けた細胞形態へと拡張し、この細胞モデルを心筋シートモデル内に導入することを現在検討している。次年度は、新たに改良された心筋シートモデルを用いたシミュレーション解析を進め、Naチャネル分布の細胞内リモデリングが致死性不整脈の発生にどのように関与するかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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