研究課題/領域番号 |
24790214
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
津元 国親 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70353331)
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キーワード | 心筋細胞モデル / Naチャネル / リエントリー頻拍 / 虚血境界領域 / 組織モデル / 興奮伝播 / Electric field 機構 |
研究概要 |
本研究の目的は、興奮伝播シミュレーションにより、心室筋細胞におけるNaチャネルの細胞内分布変化が致死性不整脈の発生に及ぼす影響を調べることにある。心筋Naチャネルの細胞内での発現分布は、先天的(遺伝子変異)ないし後天的(虚血等)な要因によって変化することが報告されている。本年度は、虚血条件下でのI群抗不整脈薬投与によるNaチャネル遮断から起る不整脈発生機構の解析を行った。これまでに、1)新たな興奮伝導機構(Electric Field機構:以下EF機構)を考慮した心筋線維モデルの提案、2)虚血境界領域に存在する心筋細胞の細胞体側面部分の細胞膜におけるNaチャネルの発現低下が、組織興奮性の低下を招くこと、3)I群抗不整脈薬投与によってリエントリー頻拍を発生し易くすることを示した。 一方、致死性の不整脈である心室頻拍・心室細動の発生機序の解明の為、昨年度に引き続き心筋シートモデルの構築とシミュレーションによる検討を行った。心室頻拍・心室細動の実態は、自発的な分裂と融合を繰り返す旋回興奮波であることが複数の研究から明らかとされている。旋回興奮波が生じるためには、少なくとも2次元的な広がりを持った心筋組織が必要となる。これまで用いてきた単純なシリンダー形状の心筋細胞から、細胞の側面部分に介在板を考慮した細胞形態へと拡張し、2次元的に配列することで「心筋細胞間」のEF機構を導入した心筋シートモデルを構築した。第一段階として、構築された心筋シートモデル上で生理的な興奮伝播が再現できるかを検証した。心筋細胞の長軸方向の興奮伝播速度は生理的速度(約50cm/s)を再現できるものの、細胞短軸方向の興奮伝播速度(約8cm/s)が遅すぎるという問題がみられた(生理的には約18~20cm/s)。そのため、不整脈誘発機序の解析の前に、2次元組織モデルの構築様式を再検討する必要があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる目標であった、2次元心筋シートモデルの構築および心室頻拍・心室細動の発生機序の検討に関しては、当初の計画通りに進展しなかった。新しい心臓組織モデルの構築を試みており、生理的な条件下での興奮伝播を再現するための試行錯誤に予想以上に時間を要した為である。引き続き、モデルの構築様式の再検討と、シミュレーション試行により、生理的な興奮伝播を再現しうる、基本組織モデルを確立する。 一方、虚血等の後天的な要因によるNaチャネルの細胞内分布変化が、I群抗不整脈薬の催不整脈作用に寄与する可能性をこれまでに見出していたが、本研究は本年度さらなる発展をみた。健常組織と虚血境界組織からなる環状心筋線維モデルを構築し、心室期外収縮への受功性を検討した結果、心筋梗塞患者へのI群抗不整脈薬投与によって、リエントリー頻拍が起りやすくなることを理論的に説明することに成功した。本研究は、心室筋細胞におけるNaチャネルの細胞内分布変化がどのように致死性不整脈の発生に関わるかを明らかにすることを目的としており、その一部は達成されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現状、当初の計画から若干の遅れはあるものの、研究遂行上に大きな問題点はなく、計画の変更の必要はない。今後も研究計画に沿って研究を実施する。 心筋細胞を2次元的に配列した心筋組織モデルの構築において、モデル構築、シミュレーション解析、モデル再構築のサイクルを繰り返し行っているが、生理的な興奮伝播を再現できていない。まずは、生理的な興奮伝播を再現することが先決であるため、その改善策を検討している。心筋細胞の側面部分で興奮を伝える経路が、実際の心筋組織に比べ、これまでに構成したモデルでは少ない。このことが、細胞短軸方向の興奮伝播速度を再現出来ない原因であると考えられた。そのため、心筋細胞の形態と配列をさらに工夫する必要がある。新たに改良された2次元心筋組織モデルを用いたシミュレーション解析から、次年度は、Naチャネルの細胞内分布変化によるNaチャネル電流の低下が心室頻拍・心室細動の発生にどのように関与するかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の進展状況に応じて機関の有する大型計算機設備を利用する計画であった。本年度は基本モデルの構築に予想以上に時間を要し、大型計算機設備を利用した計算機シミュレーションを実施できなかったことから、25年度の研究費に未使用額が生じた。 研究計画に変更はない。前年度の研究費も含め、必要に応じて研究費を執行し、当初の予定通り計画を進めていく。
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