虚血条件下でのNaチャネル遮断薬(I群抗不整脈薬)の催不整脈性と細胞内Naチャネル分布変化との関係性を昨年に引き続き検討を行った。虚血組織下における興奮伝導速度の著しい低下は、Naチャネルの細胞内分布変化だけで再現できること、健常心筋と虚血心筋からなる組織において、I群抗不整脈薬によるNaチャネル遮断は、期外刺激によるリエントリーの誘発(心室頻拍に相当)を生じやすくする事が示された。これは、大規模臨床試験で示されたI群抗不整脈薬の催不整脈作用の理解を進めるものである。また、本モデルではPhase-2リエントリーの発生も確認された。虚血類似条件にしたイヌ右室心外膜組織で観測されていたPhase-2リエントリーの発生に、Naチャネルの細胞内分布変化が関与している可能性を示唆するものである。更に、単純なシリンダー形状の心筋細胞形態から、細胞の側面部分の1箇所に介在板を設けた細胞形態へと拡張した心筋細胞モデルからなる心筋シートを構築し、その興奮伝播シミュレーションから、心筋線維方向ならびに線維横断方向での興奮伝播速度を検討した。細胞形態を考慮した新しいモデルでは、心筋線維横断方向の伝播速度が生理的速度を達成できないことが分かった。実際の心室筋細胞は、1心筋細胞当り8~9箇所で周辺の細胞と電気的に連絡しているという報告がある。更に細胞側面部分の介在板数を増やし、心筋線維横断方向での連絡数を増やす必要があると考えられた。 本研究期間を通じて、Naチャネルの細胞内再分布が致死性不整脈の発生に関与する可能性の一端を示し、その発生機序の解明に成功した。
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