研究課題/領域番号 |
24790222
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
安岡 有紀子 北里大学, 医学部, 助教 (50348504)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | V1aR / V1aR KOマウス / 腎集合管 / V2R / AP2 |
研究概要 |
本年度は、V1aR KOマウスの水電解質調節能の解析を行った。標準飼育時の血漿pH、pCO2、HCO3-、Na+・K+・Cl-濃度、浸透圧、クレアチニン、血漿バソプレッシン(VP)濃度の値は、WTとKOに差はなかったが、膀胱尿の浸透圧(mOsm/kgH2O)は、KOにおいて有意に低かった(WT 328.2、KO 322.3 (P < 0.05))。水電解質調節分子であるAQP2の発現量は、全腎においてKOで有意に少なく(western blotting)、KOの集合管管腔膜上のAQP2も少なかった(免疫染色および尿中AQP2の定量)。また、V2R mRNA量を高感度ISH (TSA-ISH)法により定量したところ、V2R mRNA量はKOで有意に少なかった(P < 0.005)。 次にWT、KOマウスを24時間絶水し、血液・尿成分を比較し、AQP2、V2Rの発現量を解析した。絶水時、血漿pH、pCO2、pO2、HCO3-濃度の値はWTとKOに差はなかったが、Na+・K+・Cl-濃度、血漿浸透圧、血漿VP濃度の値は、KOはWTより高く有意な差があった(絶水時、血漿浸透圧(mOsm/kgH2O): WT 342、KO 354 (P < 0.001)、 血漿VP濃度(pg/ml): WT 22.1、KO 48.8 (P < 0.001))。膀胱尿の浸透圧(mOsm/kgH2O)の値は、KOはWTより低く有意な差があった(WT 3610、KO 3361 (P < 0.05))。集合管のAQP2は、絶水でWT, KO共に管腔膜側へ移行したが、KOのAQP2発現量はWTより少なかった。また、V2R mRNAの発現量は、絶水でWTは増加したが、KOは増加しなかった。 V1aR KOマウスは、水電解質調節分子AQP2、V2Rの発現量が少なく、尿濃縮能が低下していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、1. V1aR KOマウスの水電解質調節能の解析、2. V1aR KOの水電解質調節分子の解析、3. アシドーシス誘導条件の検討、を計画した。 1. V1aR KOマウスの水電解質調節能の解析:標準飼育下のWTとKOの血液・尿成分の比較を行い、標準飼育下では有意な差がないことを示した。また、水電解質調節分子AQP2、V2Rの発現量を免疫染色法、western blotting法、TSA-ISH法により調べ、KOで有意に少ないことを示すことが出来た。(達成度100%) 2. V1aR KOの水電解質調節分子の解析:WT、KOマウスを24時間絶水し、水電解質調節分子を解析した。絶水時、全腎におけるAQP2発現量、集合管管腔膜上のAQP2量はKOで有意に少ないことを示すことが出来た。また、V2R mRNA量は、絶水時WTでは増加するが、KOでは変化しないことを示すことが出来た。アシドーシス時における水電解質調節分子の解析は、平成25年度に行う予定である。(達成度80%) 3. アシドーシス誘導条件の検討:アシドーシス誘導の定法である0.28M NH4Cl飲水による酸負荷は血漿浸透圧、血漿VPを増加させ、脱水による反応が混在するため、NH4Cl飲水ではなく酸添加食によるアシドーシス誘導を検討した。2.5% NH4Cl添加食は、血漿浸透圧、血漿VPの増加を抑え、アシドーシスを誘導出来ることを確認した。(達成度100%)
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今後の研究の推進方策 |
V1aRシグナルを解明するために、引き続きV1aR KOマウスを用い、WTマウスと比較する。平成25年度は、アシドーシス時にAQP2の管腔膜への移行が阻害される機構についてV1aRシグナルの関与を調べる。 ・V1aR KOの水電解質調節分子の解析:アシドーシス時における腎集合管のAQP2発現量、細胞内局在、V2R mRNAの発現量を、免疫染色法、western blotting法、TSA-ISH法により調べる。また、血液・尿成分を比較する。 ・V1aR発現量が変化する細胞の同定:アシドーシス誘導後の腎尿細管V1aRの発現量変化を解析する。発現量が変化した細胞において産生・放出される蛋白やイオンが、AQP2の発現や膜移行に関与する可能性がある。 ・アシドーシス時のV1aR KOの血漿、尿成分、水電解質調節関連分子の解析:集合管V1aRは尿酸性化を担う間在細胞に発現しているため、アシドーシス時の血漿、尿成分をWTとKOで比較し、違いがあるか調べる。また、AQP2の発現を制御すると考えられている分子(アルドステロン、インスリン等(Hasler U, et al. Am J Physiol. 2009))についても、発現量を比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. V1aR KOの水電解質調節分子の解析:アシドーシスは2.5% NH4Cl食負荷(6日間)により誘導する。イソフルレン麻酔下で採血後、腎臓を摘出し、右腎は蛋白精製用に採取し、左腎は組織化学的解析用にパラフィン包埋する。V2R mRNAの発現量はTSA-ISH法、AQP2蛋白の発現量はwestern blotting法により定量し、AQP2細胞内局在は免疫染色法、尿中AQP2量により解析する。 2. V1aR発現量が変化する細胞の同定:アシドーシス誘導後、WTマウスの腎V1aR発現量を尿細管の部位別、細胞別にTSA-ISH法によって定量し、標準飼育時のV1aR発現量と比較する。 3. アシドーシス時のV1aR KOの血漿、尿成分、水電解質調節関連分子の解析:アシドーシス誘導後、採血した血液成分の血漿pH、HCO3-、pCO2、電解質濃度、浸透圧、クレアチニン、血漿VP、アルドステロン、プロスタグランジン量等について測定する。尿成分は、pH、アンモニア排泄量、電解質濃度、浸透圧、尿中クレアチニン量、尿中VP量等を測定する。WTとKOに違いがあるか比較する。AQP2の発現を制御すると考えられているアルドステロン、インスリン、TNFα、CREB (cAMP-responsive element binding protein)、AP-1 (activator protein 1)、NF-kBなどの遺伝子、蛋白の発現量 (TSA-ISH法、real-time PCR法、western blotting法)を解析する。WTとKOに違いがあるか比較する。
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