膵液分泌に重要な役割を果たす重炭酸イオン輸送を担うイオンチャネルの生理機能と分子基盤を明らかにするため、膵臓導管細胞に存在する陰イオン輸送体の電気生理学的同定を試みた。 モルモットの膵臓から導管を単離した。倒立顕微鏡下で導管を切り開き、管腔側膜を露出した。グラミシジン‐パッチクランプ法を用いて、導管細胞における全細胞電流を測定した。細胞外のアデノシンは導管細胞の陰イオン電流を濃度依存的に増加させ、そのKd値は20 microMだった。エタノール(1 mMまたは10 mM)はアデノシンにより活性化される陰イオン電流に影響を与えなかった。次に、ラット膵管の十二指腸膨大部にカニューレを挿入固定し膵液の採取をした。選択的アデノシンA2A受容体作動薬のCGS 21680を血中に投与すると、膵液分泌量および重炭酸イオン濃度が増加した。 以上の結果は、アデノシンは管腔側膜に存在するアデノシン受容体を介して陰イオン輸送体を活性化し、膵臓導管細胞の重炭酸イオン輸送を制御することを示唆する。また、アデノシンは炎症性疾患、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、神経変性疾患などに広く関与することから、アデノシンが膵炎や膵癌などの膵臓病の進行に中心的な役割を果たす可能性がある。 今後は、新鮮分離膵臓導管細胞の管腔側膜に機能発現するイオンチャネルの電気生理学的同定および分子基盤が解明され、膵液分泌機構の理解が深まることが期待される。
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