心肥大は、心筋梗塞や心不全などのリスクファクターの一つである。これまでに心肥大形成に関わる多くの蛋白質が見出されているが、そのメカニズムは未だ不明である。我々は心臓にほぼ特異的に発現するが、機能が不明な蛋白質calcineurin B homologous protein 3(CHP3)に注目し、その機能を解明することで心肥大形成のメカニズムを明らかにすることを目的とした。アデノウイルスを用いてラット新生児心筋細胞におけるCHP3遺伝子をノックダウンさせたところ、細胞サイズの増大および心肥大マーカーの発現増強が認められた。しかもこの心筋細胞では心肥大形成に関わることが知られている蛋白質glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)のリン酸化レベルが増大することが分かった。一方、CHP3を高発現させた繊維芽細胞にインスリンを処置しGSK3βのリン酸化を誘発させたところ、コントロール群に比べリン酸化レベルが上昇しないことが分かった。さらに、共免疫沈降法を用いた実験結果からCHP3とGSK3βとが相互作用する可能性が示唆された。したがってCHP3がGSK3βのリン酸化を負に調節することで心筋細胞肥大を制御する蛋白質である可能性が考えられた。これよりCHP3をターゲットとした病的心肥大の新たな予防戦略が確立できるのではないかと考えられる。本研究ではCHP3ノックアウトマウスの作製および表現型の解析を目標としているが、作製期間が伸びており今後も研究を進めて行く予定である。
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