これまでに、低気圧による慢性痛の増強を動物実験で再現し、その痛みの増強が内耳破壊により抑制されること、また、単一神経細胞外記録法により、前庭神経核および三叉神経脊髄路核に気圧低下に応答する細胞があることを明らかにした。これは、内耳に気圧センサーまたは気圧検出機構が存在することを示唆する。本研究では、生体の気圧検出において、内耳、三叉神経系のどこで、どのような機構が働くのか、さらに、気圧検出に関わる受容体としてTRPVファミリーに着目し、気圧検出における役割を検討した。 深麻酔下でラットを気圧低下環境に曝露した後、かん流固定して組織を取り出し、三叉神経節、三叉神経脊髄路核、前庭神経核でのc-Fos発現およびTRPV1、TRPV4、三叉神経節のERKリン酸化について免疫組織学的に調べた。 PCRおよび免疫染色によってラット脳硬膜、三叉神経節にTRPV1、TRPV4が発現していることが確認できた。また、気圧低下により、三叉神経節のTRPV1、TRPV4発現が増強することが確認できた。 気圧低下によって前庭神経核および三叉神経脊髄路核のc-Fos発現が誘導された。また、三叉神経節のERKリン酸化も確認できた。 以上のことより、気圧低下は前庭神経系および三叉神経系を賦活する刺激となること、さらにそのメカニズムにTRPV1、TRPV4が関与する可能性が示唆された。今後、例数を増やすとともに、内耳器官でのTRPV1、TRPV4発現を検討する。
|