研究課題/領域番号 |
24790250
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
大西 浩之 金城学院大学, 薬学部, 助教 (90523316)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肝細胞増殖因子 / マンノース受容体 / マクロファージ / 貪食作用 |
研究概要 |
HGFは傷害に応じて産生が高まり、多彩な生物活性によって組織再生を導く内在性再生因子である。一方で、HGFは傷害・炎症組織で働くプロテアーゼによってα鎖およびβ鎖(HGF-β)に断片化される。私達は、HGF-β受容体としてマンノース受容体(MR)を同定するとともに、HGF-βがMRを介してマクロファージ(Mφ)のラテックスビーズ貪食を促進することを見出した。本研究は、HGF-βが示す貪食促進作用の分子メカニズム、およびMφが示す免疫調節作用に対してHGF-βがどのような機能を有するのか、をMRに着目して解明することを目的とする。今年度の解析によって下記の研究成果を得た。 (A) HGFをエラスターゼ消化し、液体クロマトグラフィーによって本研究の遂行に必要な量のHGF-βを調製した。 (B) 死細胞の貪食能にHGF-βがどのような影響を与えるのかを解析した。HGF-βで刺激したMΦの培養系にアポトーシス好中球を添加したところ、アポトーシス好中球の貪食促進が認められた。HGF-β以外の既知MRリガンドではアポトーシス好中球の貪食は促進されず、HGF-β特異的な活性である可能性が示唆された。 (C) HGF-βによるラテックスビーズの貪食促進作用は、MRのノックダウンによって阻害された。また、アクチン重合阻害剤であるサイトカラシンDの添加によってもHGF-βの貪食促進作用がキャンセルされた。以上から、HGF-βがMφのMRに結合した結果、アクチン細胞骨格が影響され、貪食能が高まっている可能性が示唆された。現在、HGF-β刺激したMφからMRと相互作用する分子の同定を進めている。 以上から、傷害・炎症組織で生じたHGF-βはMφによる死細胞の除去を促進し、組織の修復に積極的に貢献している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)HGF-βによって貪食が促進される粒子の種類、(2)HGF-βがMRに結合することで伝達されるシグナル、(3)アクチン骨格および細胞内膜系へのHGF-βの作用、について解析することを目的としている。 本年度はまず、本研究に必要となるHGF-βの精製を行い、充分な量のHGF-βを確保することができた。その上で研究を進めた。 (1)HGF-βがアポトーシス細胞の貪食能を高めることを見出した。一方でネクローシス細胞の貪食促進については促進活性を認めなかった。今回の解析から、HGF-βは生理的な貪食能も促進することが明らかとなり、炎症・傷害組織におけるHGF-β生成の意義の一端を明らかにできたのではないかと考えている。バクテリアの貪食に対してのHGF-βの作用についても現在解析しており、おおむね順調に進展している。 (2)HGF-β刺激特異的にMRと相互作用する分子を、MRに対する抗体を用いた免疫沈降法によって同定しようと解析中である。ただ現在のところ分子の同定には至っておらず、研究計画よりもやや遅れている。これまではHGF-β刺激のみに応じた解析を行ってきたが、今後LPSやIL-4等の刺激でMΦに揺さぶりをかけたうえで相互作用分子の同定を行うことも考慮に入れたい。 (3)HGF-βの貪食促進活性がアクチン重合阻害因子であるサイトカラシンDによってキャンセルされたことから、HGF-βはアクチン骨格の再構成を介して貪食能を高めていることが示唆された。実際にHGF-β刺激を行ったMφではアクチン骨格に変化があることを見出しており、順調に計画に沿って研究を進めることができている。今後、HGF-β/MRシグナルがどのようにしてアクチン骨格を再構成するのかについて解析を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、HGF-βがMRに結合することで何故アクチン骨格の再構成が起きるのかについて、MRと相互作用する分子の同定を行い、その下流へと伝達されるシグナルの解明を行う。また、貪食作用にはアクチン骨格の再構成だけでなくエンドソーム等の内膜輸送も関与していることが知られており、これらを調節する因子の活性化なども解析する。HGF-βが貪食に関わる受容体(例えばFc受容体や補体受容体)の発現を亢進している可能性も考えられる。そこでこれらの受容体の発現量も解析する。 また本年度、HGF-β刺激によってアポトーシス好中球の貪食が促進されることが明らかとなった。アポトーシス好中球の貪食は抗炎症性サイトカインの産生を高めることが知られており、HGF-βによる貪食能促進は炎症反応を鎮静する可能性がある。そこで、HGF-β刺激によってアポトーシス好中球の貪食が促進されたMφから産生されるサイトカインの解析を行いたい。 以上の研究を介して、HGF-βがMφの貪食促進作用を起こす分子メカニズム、さらに免疫系の調節を行う分子メカニズムの全容解明へとつなげたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、HGF-β刺激特異的にMRと相互作用する共役受容体の同定を進める。さらに共役受容体を介して伝達されるシグナルを解析することによって、HGF/MRシグナルを解明する。本年度、MR共役受容体の同定を予定していた。しかし研究は当初の計画通りには進んでおらず、共役受容体の同定に使用する試薬や消耗品を一部購入しなかった。そのため、次年度使用予定の研究費(12万円程度)が生じた。翌年度、MR相互作用分子の同定に使用する予定である。またHGF-βがアクチン骨格、内膜輸送調節分子に与える影響について、分子の活性化、量的変化をウエスタンブロット等で解析する。 以上の生化学的・分子生物学的実験および細胞培養に使用する試薬、消耗品に研究費を充てる(年間100万円程度)。また、得られた研究成果を学会および論文発表によって積極的に発信する(年間20万円程度)。
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