研究課題/領域番号 |
24790251
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
馬 艶 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70457050)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 薬物感受性 / 薬物副作用 / 薬物相互作用 / バルプロ酸 |
研究概要 |
バルプロ酸、スタチンや免疫抑制薬は臨床ではきわめて広く用いられている。しかしこれらの薬物の副作用や相互作用を起こすメカニズムはほとんど不明である。我々は、分裂酵母をモデル生物として用いて分子遺伝学的研究を進め、本年度は以下の結果を得た。 1.HMGCoA還元酵素は高コレステロール血症治療薬スタチン類の標的であるが、その臨床効果が真に血中コレステロール量の低下によるものかどうかについては議論がある。我々はモデル生物において、HMGCoA還元酵素の抑制による増殖抑制はエルゴステロール量の減少ではなく、ファルネシルピロリン酸(FPP)などの中間代謝産物の減少によるものであることを明らかにした。FPPは、がん遺伝子の活性化にも必須の物質なので、スタチンの臨床効果やバルプロ酸等の相互作用もこれらの中間代謝産物の減少を介している可能性が示された。 2.我々は、バルプロ酸が細胞内輸送に影響することを既に明らかにしている。今年度は、我々が同定した亜鉛輸送タンパク質Cis4がGPIアンカーの細胞内輸送に重要な役割を果たしていることを明らかにすると共に、分裂酵母のGPIアンカーは、ヒトなどと同様にクラスリン小胞輸送経路によりERから細胞表面まで輸送されることを明らかにした。 3.薬物や様々なストレスに応答する転写因子Atf1が細胞内にある全てのマップキナーゼをノックアウトしても酸化ストレスに応答して活性化されることを発見した。Atf1が酸化ストレスによって直接活性化される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,哺乳動物細胞に極めて近い細胞内情報伝達系を持つ分裂酵母モデル系を用いて、バルプロ酸、スタチンや免疫抑制薬の副作用や相互作用を起こすメカニズムを分子遺伝学的に解明しようとするものである。これまでに、超感受性変異体を作成し、それぞれの変異体に多コピー分裂酵母ゲノムライブラリーを導入し、薬物感受性を完全に回復できる原因遺伝子候補を獲得した。また、これらの遺伝子を栄養要求性マーカーとともに染色体に組み込み、変異が起こっている遺伝子と同一かどうかを遺伝学的方法により決定した。さらに、ノックアウトライブラリーの細胞を網羅的に解析することにより、多数の感受性細胞を効率よく同定できた。これらの遺伝子を機能的に分類すると、細胞内輸送、転写調節、トランスポータ、キナーゼ、ホスホターゼ、ミトコンドリアやユビキチン系の遺伝子が同定できた。このように、分裂酵母細胞において、1つの薬物が多彩な細胞機能に影響することから、同様のメカニズムがヒトでの副作用においても重要だと考えられる。このように、我々の研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、VPAの多彩な作用を示すメカニズムを解明しようとしている。今年度は上記のように、今年度にはノックアウトライブラリーの細胞を網羅的に解析することにより、多数の感受性細胞を効率よく同定できた。これからは科研申請書に書いたようにこれらの遺伝子の機能に関して、主に次の6つの方法により解析を行う予定である。①過剰発現及びシングルおよび多重ノックアウト細胞を作成し、表現型および合成効果を調べる。②GFPとの融合蛋白質を酵母細胞に発現させ、動的に機能する様子を観察する。③大腸菌や酵母に発現させた蛋白質を精製し、蛋白化学的な解析を行う。④特に、なぜ薬物感受性を示すなのか、その他の標的分子は何なのかを中心に解析する。⑤多コピー抑圧遺伝子の取得とプルダウンにより、薬物感受性遺伝子と機能的関連をもつ遺伝子の同定と機能解析。⑥分裂酵母での機能解析と平行して哺乳動物培養細胞系での機能解析を試みる。 ⑥に関しては、分裂酵母モデル生物を専門にしている我々の研究室は哺乳動物培養細胞系での解析に経験が少ない。これから哺乳動物系に豊富な経験を有する学内研究者が研究遂行に協力する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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