(研究目的)医薬品の使用により引き起こされる急性腎不全は薬剤性腎障害と呼ばれ、中でも抗がん薬や抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬やヨード造影剤等による腎障害は発現頻度が特に高い。しかしながら多くの薬剤では腎細胞や腎組織への直接的な薬理作用は想定外であり、腎障害の発現機序はほとんど明らかにされていない。本研究では、昨年度の研究において明らかになったバンコマイシンによる尿細管上皮細胞の障害発現機序についてさらなる解明を行うと共に、保護薬物の探索を行った。 (研究方法)ブタ近位尿細管由来LLC-PK1細胞にバンコマイシン(4mM)を曝露して細胞障害を誘導し、TUNEL染色法を用いたフローサイトメトリー解析により評価した。各種タンパク質の発現評価は、特異的抗体を用いたWestern blot法により行った。ミトコンドリア機能評価は、ミトコンドリア膜感受性試薬JC-1を用いた。 (研究成果)バンコマイシンによってLLC-PK1細胞に引き起こされたミトコンドリア機能異常やアポトーシスは、脂溶性抗酸化薬ビタミンEならびにミトコンドリア標的抗酸化薬mitoTEMPOの処置によって有意に抑制された。一方、バンコマイシンはJNKおよびERKのリン酸化を亢進させたが、p38 MAPKのリン酸化には影響しなかった。さらに、バンコマイシンによるLLC-PK1細胞障害に対してJNK阻害薬SP600125が有意な保護効果を示したことから、バンコマイシンによる尿細管上皮細胞障害の発現には活性酸素種と共にJNKが関与することが明らかとなった。
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